第50話 だから




 着地すると、飛行する我らを追いかけて時折鳥が降りてくる。今日もそうだった。


 さすがに体長80メートルの蛇(?)は目立つ。そろそろ己を蛇と呼ぶには無理がある気もしておる。


 我がそ奴らを《引っ掻く》して弱らせ、相棒が《蜘蛛糸》で絡め取る。


 相棒が《蜘蛛巣》で50メートル四方の立方体を作り、その中で夜を過ごす。我が鳥たちを《魔炎の邪眼》で焼いていく。


 わずかに枝葉の下に落ちる月の光の中、炎がパチパチと音を立てながら魔物を焼く。焼き鳥だ。やはりタレが欲しい。それか塩。


 調整が難しく、最初は黒焦げにして台無しになってしまい、相棒に怒られた。


 戦闘の途中でも調整を練習して、今では良い焼き加減だ。


 猫舌というか火属性弱点だからか、相棒は焼いた肉を最初渋ったが、今では気に入ってくれている。相棒も我も、焼き加減はレアが好き。


「この時ほど、あいぼーと一緒にいれてよかったと思うことないわ」


 下僕蜘蛛たちと別れてからは、甘えたような口調になっていた。幼女らしくかわいらしい。


 外見や立場に、精神は引きずられるのだろう。


 我も巨体化した体に合わせて、己がどこか偉そうになっている気がする。


 二人でじわじわと焼いている鳥を見つめていると、相棒が呟いた。


「……今日で、最後なんか」


 相棒の聡明さには、いまだに驚かされる。今日言おうとは思っていたが、これまで伝えてこなかったのだ。


 この生活は、楽しい。ただ、母を殺したこの森にいるのは、つらい。動物としての感覚も魔物としての感覚も、別に気にしていない。夢さえ見なければ、別にこのまま北へ行ってもよかった。


「……あぁ」


 しかし、相棒なら気付くだろうと思ってもいた。我が最初から相棒を尊敬し、愛したのはその智恵だった。


 そしてその智を、我や下僕蜘蛛を思いやることにも使ってくれるところだ。


「あいぼー。ウチら、また会えるんか?」


「会える。それは、約束しよう」


「ぜったい?」


「絶対だ」


「もし会えへんかったら?」


「我に《蜘蛛毒牙》千回くらわせてよい」


「会えへんかったら《毒牙》もかませられへんわ」


 それもそうだなと笑う。


 それから、思い出話になった。


 初めて会った時は互いにまだ小さく弱く、木の下穴で震えていた。


 ゴブリンを倒した。


 我の《存在進化》中、相棒が死ぬ気で守ってくれた。


 相棒を咥えて、ゴブリン達を狩った。


 大ムカデを倒した。あの時は死ぬかと思った。


 北進の旅。


 我の自意識で付き合わせた死闘。


 あの夕焼けの美しさ。


 話の合間合間に、その時食ったものの感想が入った。


 我らの食い意地は、動物としても魔物としても正しい。


「メシが美味かったのは、相棒と食っていたからだ」


 そんな思い出話の途中で、一匹の蜘蛛が《蜘蛛巣》の囲いの中に入ってきた。


 何かと思えば、相棒が南で置いてきた下僕蜘蛛の一匹だった。


 右目の辺りに裂けた古傷がある。何度も貢ぎ物を持ってきた、最初から付いてきていた蜘蛛だった。


「「おおおぉぉぉぉおおおおおおおおお!!」」


 相棒と我ははしゃいだ。この小さき体で、どれ程の苦労があったことか。


 何度か《存在進化》を経たのであろう。小型だが、我らが見たことのない希少種に進化している。


 二人してしばらく古傷の戦士を讃える。


 我が去ることと、相棒をよろしく頼むと伝える。古傷の戦士は力強く肯いた。


 こ奴超カッケェ。


 三人で鳥を食い《蜘蛛巣》にかかった魔物を、また《魔炎の邪眼LV1》で焼いて食った。


 古傷の戦士も主同様に、最初は躊躇ためらった。


 相棒が、めっちゃ美味いで! と言って勧めたので渋々食うと、気に入ってくれた。


 相棒は女王としてではなく、素の関西弁幼女として振る舞いつつ、


「下僕蜘蛛で素のわらわを見せるのは、そなただけじゃぞ」


と戦士を感動させる、女王としての仕事も忘れない。


 震えながら何度もうなずく戦士を見ながら、天の声を聞いた。


 あぁ、焼いている魔物が死んで、レベルアップしたらしい。


 また、あの猛烈な眠気だ。



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