第23話《存在進化》Ⅰ




「つーか、食ったら眠……」


「ようやく終わったようやな」


 背後からカサカサと、相棒が姿を現した。


「おぉ、いたのか」


 目を閉じてめちゃくちゃに突進し続けていたが、どうやら元の場所からは離れていなかったらしい。同じところを暴れていたようで、周りを見てみればかすって皮のめくれた木が多い。


「何や、散々待たせといて。もう俺完食したで」


 さよか。


「悪いけど、俺今すげぇ眠いんだわ」


「アホ……。ってあぁ、そういうことか。いやでもここで寝たらアカンて!」


 あぁそうか、ここは北だ。夜になると、あのムカデやムカデや猪や狼の群れやムカデより、さらに強い敵が出てくる。


「で、も、眠ぃぃい」


「あーもうわかった。最後、一回でいいから全力で突進せいや」


 あとは昨日みたく、今度は南に運ぶからという相棒の声に、眠気をこらえて《突進》の準備をする。


「ちょい待ち。方向合わせる。夕日があっちやから、えー。オッケ、噛むで」


 鼻の辺りを、相棒が牙で噛んだ。そのまま右の方に引っ張られる。ずりずりと。


 痛みで眠気が覚めるかと思ったが、それでもちっとも覚めない。尋常じゃない睡魔、魔王級。


 睡魔王である。


 再びカサカサと相棒が動き、俺の背中から腹に爪を立てるのを感じた。乗っているのだろう。


 もう喋るのも億劫だ。


「よし! ええ」



    《身体操作》《瞬発LV5》

    《突進LV8》



「でえぇぇぇぇぇえええ!」


 背中に相棒の絶叫を聞きながら、飛んだ。




    ―復讐期限まで、あと38時間です―








 ものすげぇ勢いで移動している。


 俺の《突進LV8》も、かなり速くなったものだ。何たってLV8なのだ。LV1の時とはモノが違うってばよ。


 速さを強化している《瞬発LV5》も最初の頃より格段に上がってるしね。


 目を瞑っている、というか眠すぎて瞼が上がらないのだが、レベル10に上がった際の脱皮する皮が、速度で剥がれていっているのがわかる。


 頭から、掠った身体からも流血していたから、皮も剥けやすかったのだろう。


 そんな《突進》でも、飛行能力があるわけではないので、当然高度は徐々に落ちてくる。


 そこで相棒が木の枝に蜘蛛糸を付着させ、ブランコのように落下を止めて再び浮き上がり、また前方の枝へと蜘蛛糸を付着させる。ターザンごっこだ。


 俺だけじゃない。相棒も強くなった。俺の体長は体感で5メートルを越えている。


 そんな俺を掴んで支えて、あまつさえ木にぶつからないように調整している。ゴブリンを乗せていた時は木にぶつかるよう神に祈っていたのに、今度はぶつからないよう相棒を頼っているのが可笑しい。


 デカくなった分だけ重くもなっているはずなのだ。昨日まで体長50センチ程度(これも体感)だった蜘蛛が、こんなことを出来る。


 相棒の《蜘蛛糸》はどれだけ強靭な糸になっているのか。《操糸》はどれだけ器用になっているのか。


 俺と戦ったら、どっちが強いかな?


 そんな、どうでもいいことを考えた。どうでもいいと思える大切な友情を考えた。


 俺たち二人なら、空だって飛べる。現に飛んでるじゃないか。


 アイキャントフラーイ、ばっと、ウィキャンフラーイ。


 ……どうかしてるな。とにかく眠い。








 相棒が俺の鼻を牙で噛み、引きずるのを感じる。


「ここ……きぃや。周……巣で……るから」


 相棒の声が聞こえる。聞こえはするが、眠すぎて言葉の意味を認識できない。



    スキル《薙ぎ払うLV1》を獲得した!

    各基礎能力が向上した!

    《消化吸収能力LV4》が《消化吸収能力LV5》に上がった!




  ぱんぱかぱーん!


   《魔性の蛇》は《大蛇》に《存在進化》可能です!

    《第三の目》と《眼力LV5》のスキルを確認。

      条件を達成。新たな存在進化先が解除されます。

    《魔性の蛇》は《三つ眼の蛇》に《存在進化》可能です!

     一定以上のサイズを確認。

      条件を達成。新たな存在進化先が解除されます。

    《魔性の蛇》は《三つ眼の大蛇》に《存在進化》可能です!

     闇属性の称号、《深き闇の者》を確認。

     闇属性の称号、《陽の当たらぬ闇》を確認。

     条件を達成。新たな存在進化先が解除されます。

    《魔性の蛇》は《邪眼の大蛇》に《存在進化》可能です!



   選択してください。


    ① 《大蛇》

    ② 《三つ眼の蛇》

    ③ 《三つ眼の大蛇》

    ④ 《邪眼の大蛇》




 いやだから、眠いっつってんだろうが。


 何で天の声だけはっきり聞こえんだよ……。



   選択してください。


   選択してください。


   選択してください。


   選択してください。


   選択してください。


   選択してください。


   洗濯してください。


   選択してください。


   選択してください。


 うるっせぇな④だよ④! かっけぇから④だよ! 何か一個間違えてんぞ!



   選択を確認しました。




   《魔性の蛇》は《邪眼の大蛇》に存在進化します。




 …………。


 天の声が黙った。よう、やく、眠……れる。



 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る