第18話 VSゴブリン




「なぁ蛇」


「なんだ蜘蛛」


「これ楽しいわ!」


 背に乗せている蜘蛛を寝させないという目的もあって、そこそこのスピードで蛇行していたのだが、蜘蛛は楽しみ始めたらしい。


 急げるし結果オーライだからいいけど。


 さて、北へ来たのは偶然だが、来たとあっては目的が出来た。北の強めの魔物の捕食だ。


 普段なら安全に行くところだが、今回は特別だ。背中に乗せた秘密兵器がある。またの名を蜘蛛。この北の地は、生き汚いこいつを働かせるのにもちょうどいい。


「お?」


 そうこうするうちに、目的が早くも一匹見えた。停止する。


「おい、あいつ見たことあるか? 前にいるヤツ」


「んー?」


 お楽しみが止まったことに不満だとでも言うように、八つの爪を抜いてちょこちょこと方向転換する。


「げっ。見たことないわ。ていうか絶対強いやん」


《解析》で前方に《?》と表記された魔物は、棍棒を持った緑色のゴブリンだ。弱い魔物とされているが、間違いなく今まで食ってきた魔物より格段に強いだろう。


 体感で俺の体長が180センチだとすれば、140センチくらい。小学生中学年程度。しかし筋肉はしっかりしているし、両腕両足を自由に使えるのは大きいだろう。俺も使いたいもん。


「アイツを食うぞ。半分ずつだ」


「はぁ!? 無理無理無理無理! 生きるために慎重に、がウチらの共通点やろ!」


「慎重に考えて、勝てるんだよ」


「一人でやれや! 俺は付き合わへんからな!?」


 蜘蛛は飛び降りて、俺に背を向ける。


「なぁなぁ。見たこともない強い魔物がいるってことは、こっちって南なのか? 北なのか?」


 ピクリと、蜘蛛が動きを止める。


「俺ら、かなりお前の蜘蛛糸で移動したよな? 強い魔物がいる来たことのない地域を、一人で南へ向かうなんて俺だったら嫌だけど?」


 蜘蛛は留まったまま動かない。リスクの計算をしているのだろう。


 風が吹き、木々の枝が葉を揺らす。それにしばし耳を傾ける。


 結果はすぐに出たようで、ため息を吐いてこちらを振り返った。右前脚で頭をかくのは、どうやら癖らしい。


「ホンマに勝算高いんやろうな?」


「当然」


 生き汚いのは、俺も一緒だ。長生きするために、強くなりたいのだ。






 改めて周囲を警戒する。


 ゴブリンは一匹。周囲の森にはゴブリンの仲間も、他の魔物もいない。


 オーケー。狩りを始めよう。すでに俺は、ゴブリンの後ろに回り込んでいる。



    《身体操作》《瞬発LV2》《突進LV3》



「ゴブッ!?」


 背後から噛まずに突き飛ばす。ゴブリンはたたらを踏んだ後、こちらを振り返る。



    《威圧LV1》《眼力LV2》《念話》



『殺してやる』


 ゴブリンはかすかに動きを止めたが、すぐに動き出そうとする。やはり種族もレベルも低い相手には、そうそうビビらないのだろう。


 俺の方が体格は勝ってるのにと少し悲しくなる。



    《蜘蛛糸》《操糸》



 動き出そうとするゴブの、棍棒を持った右腕に蜘蛛糸が巻きつく。


 朝方の大立ち回りで《蜘蛛糸》も《操糸》もレベルがかなり上がっているのを感じる。重い物オレを運んだからだろう。やはり蜘蛛は、俺に感謝すべきだ。



    《身体操作》《瞬発LV2》

    《突進LV3》《噛みつきLV4》



 その右腕に噛みつく。



    《噛みつきLV4》が《噛みつきLV5》に上がった!

    スキル《噛み千切る》を獲得した!



 勢い余って、右腕を噛み千切ってしまった。プランから外れてしまったことに、少し焦る。


「ギィィイ!」



    《蜘蛛糸》《操糸》



 幸いにも、ゴブリンは痛みによって動けないようだった。そこに、賢い相棒の蜘蛛糸がかぶさる。


《粘着耐性》を持っているのか、素の力が強いのか。蜘蛛糸に絡められながらもゴブは動いていた。



    《身体操作》《瞬発LV2》

    《突進LV3》《噛み千切る》



 次は右足を貰う。



    《噛み千切る》が《噛み千切るLV1》に上がった!



 ゴブは片手と片足を失い、立っていられずについに倒れ込む。予定外もあったが、上手くいったことが素直に嬉しい。共同狩りの成功だからか、自分がテンション上がっているのも自覚出来る。


「出てこいよ、相棒」


 草むらからカサカサと蜘蛛が出てくる。


「やったなぁ、相棒」


 ギィギィと痛みに身を捩るゴブを脇目に、二人でアイコンタクトを交わす。蜘蛛も嬉しそうだ。ネットのオンラインでモ○ハンを共同で狩ったら楽しいと、ふいに前世の知識が刺さる。


「じゃ、トドメを」


「刺そか」


 俺は左腕、蜘蛛は左足から、



    《毒牙LV1》《毒牙》



を食らわせる。やはり今までより強い相手で、ステータスも高いのだろう。一撃では死ななかったので、何度も食らわせる羽目になった。



    《毒牙LV1》《毒牙》


    《毒牙LV1》《毒牙》


    《毒牙LV1》《毒牙》



    《毒牙LV1》は《毒牙LV2》に上がった!



    《毒牙LV2》《毒牙》


    《毒牙LV2》《毒牙》



 さすがに死んだ。




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