第9話 初心者狩人(蛇)




 さて、脱皮と消化を終えてまた蛇行してみると、本当に身体が大きくなったのだと実感する。


「なんか、視界高い」


 今までとわずかに景色が違う。視力に頼るべきではないが、視界は少し開けた。


 しかし頼るべきものは『第三の目』と舌だ。忘れないように意識して出し入れしよう。


 チロチロ。


 チロ。


 チロチロ。


 よし。


 視覚としての視界は60度くらいで、かなり狭い。ただ舌では360度の情報が得られる。範囲は限られるけど、これが生命線だ。


 レベルアップしていけば、そのうち範囲も広がるだろうと、期待しておこう。


「でも色彩は欲しいなぁ」


 人間だった頃の色覚が知識としてあるからか、今の景色を味気ないと感じている。暗くはあるが昼なので、人間の目で見ればもっと緑も輝いているのだろう。


「それに、自分の色もわかんないんだよねぇ」


 第三の目の温度で見ようが、舌の湿度で感じようが、光の受容器ではないので色彩は感じられない。


 まぁこれは、何かのスキルを得れば見ることができるかもしれない。


 閑話休題。そんなレベルアップして力を増した俺の狩りである。


 ぶっちゃけた話、相も変わらず難航している。いや惜しいところまではいくんだよ。


《身体操作》と《瞬発LV1》での《突進》+《噛みつき》は、惜しい時にはネズミの尾に掠ることさえあった。ただもう少し、もう少し何かが足りない。


「てか狩りの難易度高いんだよなぁ。線を点で追ってる状況だし」


 あと一歩で届きそうな時、必ずネズミは気づいてしまう。殺気なのか空気の振動なのか、一定以内の間合いに入って気付くのかは定かではないが。


 真後ろから真っすぐに突っ込めば、同じ直線上で追える。さすがに強化した俺の《突進》の方がネズミより速い。が、あちら側の知恵なのか、絶対真正面には逃げてくれない。しかも、横から這い寄るよりもなぜか気付かれやすい。


 バカ正直に真正面から突っ込もうとしてみたが、さすがに視界に入って気付かれた。


「本当、あと一歩なんだけどね」


《瞬発LV2》になっても俺自身のレベルが上がっても、確実に捕まえられる。


 ただし、それがいつになるかは分からないし、俺のレベルは倒さなきゃ上がらない。


 警戒しつつ思考しながら、ネズミを探す。トロいヤツを狙うしか、現状食う手段が無いのが残念である。


 そんなこんなで進んでいると、



   スキル《解析LV1》が《解析LV2》になった!

   スキル《隠密》が《隠密LV1》になった!



良いこともあった。突進に直結するものではないのが、今は残念だが。


「何か変わってるか?」


 そう思って《解析LV2》を使ってみた。結果。


『草』『草』『木』『小魔鼠LV5』『草』『草』『草』『草』『草』『木』『草』『草』


「お? 小魔鼠いる」


 さらに、見落としそうな小さな変化だったが、レベルが表記されるようになっていた。とはいっても、今まで出会った小魔鼠のレベルを知らないので比較できないが。


 と思ったが第三の目と舌を出して確認したところ、比較できた。


「こいつ、デカい」


 今までの小魔鼠は、レベルが2か3低かったのだろう。二倍くらいは太い。これは是非とも食いたい。


 注意深くプランを考える。太いからといって、動きが鈍いとは考えられなかった。俺はレベルが上がったことで、確実に太くも素早くもなっている。相手もそうだと考えるべきだろう。 


 なら? 今までのように賭けのように突っ込むか?


 ナンセンス。うーむ。


 こんな時、さっきみたいに他の蛇がいれば、逃げる方向を限定できるのに。


「あ、そっか」


 そうだそうだ。逃げる方向がわかれば、確実に捕まえられるのだ。


 いくら相手が素早いといっても、俺の《突進》よりは遅い。中距離走なら全く敵わないが。


 なら二回、《突進》すればいい。初めてを大物で試すのは賭けだが、今までどおりやって逃げられるよりはずっといい。見ている時間が長ければ、気づかれる可能性も逃げられる可能性も増す。


「……集中しろ」


《驚異の集中力》のスキルが発動したのが分かった。時間がゆるりと流れる。睨みつけるように、鼠に敵意を向けずただ位置だけを意識する。


「ポイントはずらすなよ……」


 自分に語り掛ける。狙うタイミングはいつもと変わらない。小さくネズミが歩いて、止まった瞬



    《身体操作》《突進》



「キキっ!」


 俺がネズミがいた場所に着地した時には、すでにネズミ2体分離れていた。逃げたのは2時の方向。


「ここからッ!」



    《身体操作》《瞬発LV1》

    《突進》《噛みつき》



「キィ――!」


 俺ががぶりと尻に噛みつくと、小魔鼠LV5は高い鳴き声を上げた。


 一撃で仕留められると思っていたが、さすがにこれまでよりレベルが高いだけある。これまでの獲物を俺がレベル1だった時に殺す以上の時間、噛みついていた。


 しかし逃がすわけもなく、牙を喰い込ませていくうちに絶命した。



    スキル《三角蹴り》を獲得した!



「蹴り? 確かに三角跳びではあったけど」 


 俺は今、《瞬発》と《噛みつき》を使わずに一度、《突進》した。ネズミがいた場所に着地して即、今度は《瞬発》を使って《突進》《噛みつき》を行った。


 こうすることで、今度こそ小魔鼠を直線上で捉えることができ、結果捕らえた。


「名前はともかく、このスキルは便利だ」


 レベルや《瞬発》が上がっても、ギリギリでしか捕らえられなかっただろう。しかし、同じ直線状で捉えられる《三角蹴り》なら、余裕を持って食える。


 レベルがもっと高く、知力も高いネズミであれば蛇行したり逃げながら曲がったりするのだろうが、当分は大丈夫だろう。





 予想通り《三角蹴り》はネズミ狩りに効果大というか特効で、その後に見かけた三匹を難なく捕食した。


 さすがにLV5はあの一匹だけで、LV2とLV3だった。俺がこれまで食っていたのも、おそらくこのレベルだ。




   てれれってってってー!

   レベルが上がった!

    各基礎能力が向上した!

    スキル《噛みつき》を獲得した!

    《噛みつき》は《噛みつき》に統合される!

     《噛みつきLV1》に上がった!



 LV5の小魔鼠の経験値が大きかったのだろう。案外早いレベルアップだった。



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