第6話

「普通に話しても面白くないし、戦ってみたらどうだ、一樹」



疾風からの意見で、一樹がまた楽しそうに笑った



「名案だ。じゃあ夜斗、初戦お前と俺な。異能力カスミトアケボノ!」



異議を唱える暇もなく、夜斗の目の前を霧が覆い隠した

そしてその霧が晴れたとき、夜斗はどこかの闘技場に転移していた



「ここは…」


「異能力 《カスミトアケボノ》。詳細は省くが、お前は知ってるだろ?」



また脳の記憶を呼び起こし、一樹が作った能力を思い出す

カスミトアケボノ。効果としては、空間制御を主として時間操作を行う

ただし、魔力を消費するため連続使用はリスクが高い



「ああ、大丈夫だ」


「じゃあ試合開始!」



璃桜の声に動く夜斗

予測される相手の動きは、夜斗をどこかへ飛ばすか一樹自身が転移して攻撃してくるというもの



(なら…氷月、剣弓!)



現れた氷月は、ほぼ弓の形状をしている

しかし持ち手と弦を除き、刃を持っているのが特徴的だ



「っしゃいくぞ一樹!」


「こい!」



鎌を手の中で回し、構える一樹に向けて、夜斗はアイズに指示を出して魔法を発動する



(雷切!)



通過経路を脳内に描き、一樹の背後まで光速で移動、そのまま斬りかかる



「甘いな!」


「抜かせ!」



回避されたところで、切っ先を返して斬り上げる



(剣技・一ノ剣!)



よくある燕返しの応用、縦バージョン

夜斗は自身の能力をよく知らない

そもそも試す機会がなかった

ここで存分に、試せる



「あっぶね…。これ確か俺の技か」


「そういうことだ、どんどん行くぞ!」



アイズが指示を受けて魔法を登録・発動する

それは矢を生成する魔法。ただし矢には刻印魔術というものが織り込まれている

人間の声量・音域で発音できない失われた秘術を、風切り音で発動するものだ



「インフィニティ・レイン!」



矢の雨が降る中、一樹は致命傷になりうるもののみを弾いて走る



「オーバードライブ・カスミトアケボノ」


「は…?なんだそれ…ってあぶね!?」



一樹の背後に現れた無数の剣が、意思を持つかのように動き夜斗を襲う

オーバードライブと言う言葉から察するに、強化する能力なのだろう



【レベルアップ。能力【死神】が【カサネアワセ】に変更】


(よくわからんけど変化したな。アイズ)


『見たところ変更点は、恩恵という力を扱う能力です。現状のマスターは―――』



アイズのいう恩恵というものを起動するため、夜斗は氷月を大剣に変更した

そして一樹に向けて突きだす



「恩恵【管理者アドミニストレーター】、起動。並行操作パラレルオペレーション・剣」



夜斗の背後にいた一樹の剣たちが、一斉に一樹を襲う

間一髪かわした一樹が夜斗を見ようとしたとき、首筋に夜斗の大剣が突きつけられた



「チェックメイト」


「…やるじゃねぇか、夜斗」


「これでも一応最強なんでな」



夜斗はそう言って一樹から目を離した

そしていつの間にか紛れ込んでいた女性に目を向け、逸らし、また目を向けた



「誰だ」


「心外。私は、ノイズシリーズ初號機」


「…桜音…?」「え?さーちゃん?」


「肯定。異能力覚醒を期に、目覚めた」



桜音と呼ばれた少女の体格は中学生から高校生。胸は目を引くほどの大きさではないが、ひと目見れば吸い寄せられるような容姿を持っている

しかしそれが逆に怖くもある

着ている服は紺色のセーラー服だ



「…桜音が表に出てこれるなんて、な。夢にも見た話だ」



桜音は夜斗の中に生きる人格だった

他にも何人かいるものの、夜斗が最も可愛がっている存在

現実での対面を願うのも、仕方がない話なのかもしれない



「肯定。私も、夢にも見た光景。ただし、私は夢を見ない」


「現実的だな…。次、剣帝と璃桜」



戦闘による能力公開が終わり、全員がぐったりしている中咲羅はペットボトルに入れた水を配っていた



「…この水は…」


「咲羅の能力だよん。水を操る力で、近くの水道から回収したの。まぁきれいかどうかわかんないから3回くらい濾過してある」


「成程。濾過が足りていない。主、回帰を提案」


「飲めりゃいいだろ飲めりゃ」


「否定。この国の水は少量の下水を含んでいるため、場合によっては状態異常を引き起こす可能性がある。分析結果によると、汚水が濾過しきれていない」


「さーちゃんはそんなこともできるんだなぁ…」



撫でようとする疾風の手をすり抜けて、夜斗がもつペットボトルに指先を触れさせる



「起動。恩恵【略奪者アブソーバー】」



桜音が言った直後、開けられたペットボトルの口から、泥水のように淀んだ液体が這い出てきて床に散らばった

それが桜音のいう汚水なのだろう



「これは…」


「肯定。街の浄水装置が破損していることで、下水を浄化しきれていない。修理を提案すべきではあるけど、該当箇所不明」


「だろうな。アイズ、分析できるか?」


『微妙です。沈殿もテキトーですし、遠心分離もできていない…そのうえ電気分解の形跡がないので、多分不完全ですね。日本と同じ濾過装置なら、の話ですけど』


「それはあとで教祖にぶん投げてくる。ありがとな、桜音。ついでに全員分濾過してやってくれ」


「了解。【略奪者】」



再発動した桜音の恩恵が、全員の水を水道水よりキレイな蒸留水に変化させた

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