34:メスガキはアリクイと戦う

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名前:ヒトクイアリクイ

種族:動物(ボス属性)

Lv:89

HP:1281


解説:人を食うアリクイ。多くの人がその爪で割かれ、舌で血を吸われている。


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 ヒトクイアリクイのスペックはこんなものだ。HPはレベル相応。攻撃も広範囲だけど近距離の爪攻撃と、HP吸収効果のある遠距離の舌伸ばしと攻撃に変なギミックはない。防御力もバステ耐性も動物属性レベル。


 だけど問題なのは全部の攻撃に人間特攻がつくこと。


 とにかく一撃がえげつない。歴戦のタンクでも爪を一薙ぎされればかなりHPが削られる。対策を立てていない攻撃特化の戦士なんか紙切れみたいに切り裂かれる。防御特化以外は前衛に立つなというのが一般的な戦術だ。


 そして遠距離舌伸ばしが後方にいる回復役に飛んだ日には、一撃でやられて目も当てられない。与えたHPダメージだけヒトクイアリクイのHPが回復するので、回復役が死亡したうえにアリクイのHPが回復されて形勢が一気に逆転するのだ。


「やめておけ。死相が見えるぞ、小娘」


 クックック、と笑うヒトクイアリクイ。まさかこんな性格だとは知らなかったけど。


「死を恐れぬのなら来るがいい。痛みなくその命脈を絶って見せよう。そして知るがいい。死とは救いではない。無限に続く苦痛への入り口なのだと」

「ふーん、じゃあ死んで♡」


 言って【微笑み返し】。そして【笑裏蔵刀】。にぱっ、っと笑いながらヒトクイアリクイに迫ってゴールドナイフを振るう。相手に【困惑】を与えた後に確定クリティカル攻撃。


 遊び人の運の良さが乗ったナイフの切れ味。そして『格上殺し』『勇猛果敢』『不可能を覆す者』によるレベルが上のキャラに対するダメージ補正。それが乗ったクリティカル攻撃がヒトクイアリクイのHPを大きく削った。


「のぎゃあああああ! 笑いながら切りかかってくるとかサイコパスか!? ちょ、ちょ、ちょ、おま、おま、お前怖いぞ!」


 アタシの攻撃にキョドってるヒトクイアリクイ。素でビビってる。


「ちょっとー。せっかくのボス戦なんだからもう少し頑張ってよね。ちょっと笑いながらナイフで刺しただけで腰抜けるとか本当にボスなの、アナタ?」

「いやいやいやいや! 怖いから! ちょっとって話じゃないから!」

「さっきまで『殺戮の舞台』とか『死相が見える』とか言っておきながら、ちょっと血が出たぐらいでパニくるとか、情けなくない? ボスとしての威厳とかぁ、そういうのを維持してくれないと面白くないんですけどー」

「最近の子、こえぇ!?」


 アタシの文句にビビるように爪を振るうヒトクイアリクイ。ぶんぶんと追い払うように振るう爪は大振りという事もあってアタシには当たらない。【困惑】による命中低下が効いている。


 動物系モンスターは肉体系バッドステータスの自動解除にプラス補正がある分、精神系バッドステータス回復にはマイナス補正がかかっている。【困惑】は精神系バッドステータスなので、治りにくい。


 とはいえ、曲がりなしにもボスキャラだ。すぐに【困惑】から回復するだろう。それまでに何度か斬りかかり、HPダメージを蓄積する。


「ふははは、最初はビビったけど所詮小娘ガキじゃねぇか。初手の一撃は痛かったけど、それ以降は大したことがねぇなぁ。ブルって損したぜ」

「アンタ、そのキャラでいいの? チンピラっぽくなってるけど」

「ハッ! ……つまらぬ策を弄したところで、狼と羊の関係は変わらぬ。生き残るすべはない。希望を持つことで絶望が深まると知るがいい」


 結構オモロキャラね、コイツ。鬼ドクロと会話させてみたいわ。


 でも残念。鬼ドクロはもう帰ったし、コイツはじじいが来るまでに殺すからそれは叶わないのよね。


「生命の根幹たる血液を奪われていく恐怖を味わいながら死出の旅に出るがいい。祈る神あらば今のうちに祈れ。汝の信じる冥界へ送ろうぞ!」


 言ってアタシの胸に向かって舌を飛ばすヒトクイアリクイ。【困惑】がなくなったこともあり狙いは正確。舌はアタシの心臓を正確に狙っていた。遊び人のスペックでは避けられるものではない。舌は皮膚を貫いてアタシの心臓に――


「なにぃ!? 血が、吸えないだと!?」

「アンタが【吸血】してHP回復するなんて知ってるんだから、当然対策済みよ」


 ドヤ顔して笑うアタシ。シバルバーでコウモリマラソンして手に入れた『黒翡翠コウモリ』の効果だ。


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★アイテム

アイテム名:黒翡翠コウモリ

属性:その他

装備条件:なし

【吸血】【出血】無効


解説:コウモリの印が刻まれた黒い宝石。生者の血を守るお守り


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【吸血】の効果やバッドステータスの<出血>を無効化するアイテムだ。持っているだけでこの効果を無効化してくれる。ヒトクイアリクイ以外にも吸血鬼系の【吸血】も無効化するので、そこそこ需要のあるレアアイテムね。


「大体女の子の胸に舌を伸ばすとか、ヘンタイなの? ペロペロしてチュウチュウしたいとか、サイテー。やーらーしー」

「ごめん。膨らんでない胸に興味はない」

「謝るな! 膨らんでるもん! ちょっとは膨らんでるもん!」


 思わぬ反撃にダメージを受けるアタシ。殺す、コイツ殺す! いや初めから殺すつもり出来てるんだけど!


【吸収】が無効化されたとはいえ、舌の攻撃でのダメージ自体はある。アタシは片手で回復アイテムを使いながら、もう片方の手でゴールドナイフを振るってヒトクイアリクイを攻撃する。ヒトクイアリクイのHPからすれば小さいが、確実にダメージは通っている。


「最初の攻撃は痛かったが、その程度か。どうやら不意打ちと運による攻撃クリティカルに特化しただけのようだな。いい服を着ているようだが、その程度の守りでこの俺の爪を防げると――」

「キャラブレてるキャラブレてる」

「矮小なる抵抗よ。運も策も尽きた貴様には死の道しかない。死して我が養分となり、この大地へ還るがいい」


【吸収】が効かないと分かったからか、ヒトクイアリクイも爪による攻撃を主体にしてきた。鋭い爪がアタシを切り裂き、その度にHP回復アイテムを使って回復するアタシ。その間にアタシも斬りかかり、時々出るクリティカルで大ダメージを与える。


 こうしてHPの削り合いとなる。ヒトクイアリクイのHPと、アタシの回復アイテムの消耗戦だ。


「我が爪でその命脈を――」


 ヒトクイアリクイの爪が振るわれる。


「無駄な足掻きよ。生にしがみつくは愚か――」


 ヒトクイアリクイの爪が振るわれる。


「死をもって汝の罪をあがなうが――」


 ヒトクイアリクイの爪が振るわれる。


「ちょっと待て! なんで死なないの!? 大抵の人間はもう死んでるんだけど!」


 10分ぐらいたって、ヒトクイアリクイが叫ぶ。あ、ようやく気付いたんだ。


「人間を殺すことに特化した俺の攻撃が効かない!? いや切り裂いてるんだけど、なぜか深く傷つけられない! 実は貴様人間じゃないな!」

「失礼ね。立派な人間よ。ただアンタの人間特攻にきちんと対策立ててるだけよ」


 ヒトクイアリクイが強ボスとして怖れられるのは、人間特攻があるからだ。逆に言えば人間特攻への対策があれば、コイツはHPが高い動物でしかない。


【天衣無縫】……アタシに不利になる効果を受けないアビリティ。


 このアビリティはアタシに不利になるをきっちり無効化してくれる。それでいて人間属性が有利になるときは効果を発揮してくれるのだから、ホントぶっ壊れアビリティである。


「そんなのアリか!?」

「アリもアリ。アリアリなのよ。とっととアタシにやられて経験点とレアアイテムになりなさい!」


 アタシとヒトクイアリクイの勝負は、ほぼ決している。ここまでは想定内だ。伊達にレベル90近くの人達と一緒にダンジョンマラソンしたわけじゃない。……ちょっとギリギリ酷使したかなぁ、って気もするけどきっと大丈夫。アタシのゲーム勘的に死なないラインは維持してたはずだし。


 でもこの勝負はアタシとアリクイだけの問題ではない。


「ウィは偉大なるブレナン帝国の王であるガドフリー・ブレナン三世である! グランチャコに住む人を食らう猛獣よ! 我がアテンダントの恐ろしさを知るがいい!」


 乱入してくるじじい。勝負はじじいとアタシのダメージレース。ここからが、勝負の始まりだ。

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