27:メスガキは聖女に推理を求める
「ってどうしたのよ、アンタ。なんか気になることでもあるの?」
「……いえ。少し引っかかることが……。何か見落としているような……」
言って何か考える聖女ちゃん。何かおかしいことに引っかかっている。そんな感じだ。
「すみません。今はそれよりも悪魔の武器の方が大事ですよね」
確かに今大事なのは理由の分からない違和感よりも、この五流悪魔の次の手だ。わけわかんない妨害を受けたけど、残りの数もわかってる。サクッと終わらせたほうがいい。そう考えるのが普通――なんだけど、
「その違和感、もう少し考えてみて」
シークタイムゼロでアタシは言う。アタシにない気づきがこの子に浮かんだのなら、それは多分間違ってないわ。根拠なんてないけど、この子の考えは信用できる。常識とかなんかよりも、よっぽど頼れる。
「でも本当に何か引っかかる程度で……しかも何に引っかかってるかが分からないんです」
「なによう、アンタも悪魔に常識弄られたの?」
「そうではなく……そうでは、なく……?」
アタシの言葉にぶつぶつと何かを呟く聖女ちゃん。
「そうです。ラバール司祭は悪魔にステータスを弄られていないんです。あくまで人間のまま、魔物にならずに襲い掛かってきました」
「そうね。素でアタシのことをワルモン扱いしてたわね」
「はい。確かにトーカさんの悪評を鵜呑みにすればそういう考えに至ります。洗脳云々はさておき、ラバール司祭の言っていることは事実の曲解です。
――ラバール司祭、よろしいですか?」
この子の中で、考えがまとまりつつあるみたいだ。アタシを襲った何とかっていう司祭に向けて質問する。
「トーカさんが私を洗脳したという話は、貴方が思いついたものですか?」
「そうだ。様々な情報から検証し、その事実にたどり着いた」
「その情報の主な出どころは、皇族周辺が情報網ではありませんか?」
「そうだ。皇族に仕える情報収集を取り仕切る部隊。そこから私のコネを通じて得た情報だ」
「皇族って。あのアホ皇子の周り? でもとっ捕まって軟禁されてるんじゃないの?」
アタシは思ったことを口にする。変態三司祭が何か言いたげに視線を向けるけど、気にしない。渋い顔をしながら四男オジサンがアタシの質問に答えてくれた。
「確かにクライン皇子は現在軟禁されております。ですが皇子を世話する役職は存在します。皇族直属の部隊も解体されないままです。現在は代理政権が命令を下している形になっております」
「軟禁されてるのに情報収集する部隊が生きてるのっておかしくない?」
「部隊そのものには罪はありませんので解体はされませんでした。クライン皇子との接触は絶っておりますので無関係かと」
「ふーん。ま、馬鹿に巻き込まれるのもかわいそうって言えば可哀そうだもんね。
で、それがどうしたのよ?」
どうでもいいや、とばかりに手を振って聖女ちゃんに話を振る。アタシからすれば偉い人って大変ねー、程度の話だけど。
「リーンはクライン皇子とコンタクトを取っています」
「……あ」
そういえばそんなことを言っていた。正確には聖女ちゃんの報告にそんなことがあった。魔王になりたいとかそんなわけわかんない望みを持っているとか。
「リーンが国内のどの立場でどういうことをしているのかはわかりませんが、悪魔の能力を駆使すればどんな立場にもなれます。私にしたように空間に閉じ込めて話をすることもできるでしょう。接触を断つと言ってもあくまで人間レベル。悪魔が立ち入るのを止めることはできません。
その皇族周辺から情報を得たのなら、リーンの悪意が含まれていても不思議ではありません。或いはリーンに直接情報を渡されたかもしれません」
「なに。じゃあこいつはリーンにステータス弄られたっていうの?」
「いいえ。ただトーカさんの悪評を聞かされたのでしょう。そして私たちがここにいることを知って、襲撃をかけた……。
いいえ、襲撃をかけるように誘導されたんでしょうね。もともとトーカさんにいい感情を持っていないこともあって、トーカさんの悪い情報を全て信じてしまったのでしょう」
人間、自分に都合のいい情報は信じやすい。逆に都合の悪い情報は遮断してしまう。アタシが魔王を倒したっていう事実も、毒殺云々で上書きされて卑怯だと思うように。アタシに悪意があるから、アタシが悪いという情報は無条件で信じてしまう。
「そんな事あるカ? 頭使えバ、おかしいとか思わないカ? ただの噂ダロ?」
斧戦士ちゃんは首をかしげる。でも人間なんてそんなものだ。
「アンタだって最初は勘違いでアタシを襲ったじゃない」
「ウン。だからダーはもう同じことはしなイ。一度間違えたカラ、二度と間違えないゾ」
「全部の人間がアンタみたいに素直ならいいんだけどね」
真っ直ぐすぎる性格の斧戦士ちゃんに肩をすくめるアタシ。人間の性質はともかく、この司祭が情報をそういう所から得て、その結果アタシに対するヘイトを募らせ、そんでもって襲撃してきたってことか。
「おそらくリーンにアタシがいることを教えてもらったんだろうけど、ご愁傷さま。そんだけの兵力でアタシをどうにかできると思ったのが間違いってことよ」
「く……! まさかあのヘルトリング様がこの場にいるとは……!」
何とかって司祭を見下して言うアタシ。悔しそうに歯ぎしりする司祭。素でアタシを悪人と思い、自分に正義があるという目だ。
「そうですね。おそらくリーンは知らなかったんでしょう。トーカさんにヘルトリングさんが付いていることを。そしてニダウィちゃんのことを。
もしそれを知っているのでしたら人数はもう少し増えていたか、あるいは別の襲撃作戦になっていたでしょう」
聖女ちゃんの言葉に、思考するアタシ。
アタシと聖女ちゃん。そして変態三司祭だけだった場合、聖騎士を押さえるのはほぼ無理だった。アタシが復活するより前にもう一撃ぐらい【神の鉄槌】を喰らっていたかもしれない。それでもアタシと聖女ちゃんなら立て直して抑え込むことはできただろう。最悪『旅の追憶』を使って逃げることもできた。
「どっちにしてもむ・だ・ぼ・ね。アンタ如きがアタシを同行できるわけないじゃない。アホ皇子同様、暗い所で一生過ごせばいいのよ」
「求刑は多くとも禁固4年ぐらいになると思います。殺人というわけではないので」
「余計なことは言わない」
アタシの見下し発言に適切なツッコミを入れる四男オジサン。何よ、この国に法律バグってる? アタシみたいに闘技場送りでいいじゃない。
「問題はそこです」
アタシの言葉に指を立てて同意する聖女ちゃん。
「そうそう。アタシみたいないい子を傷つけて4年で済むはずないのよ」
「いえ、そこではなく。たしかにいろいろ許せませんが法は法です。
この人数で私とトーカさんをどうにかできる、とリーンが考えるはずがないんです。多少の傷ぐらいは負うかもしれませんが、それでもトーカさんなら何とか切り抜ける。そんな戦力です。ヘルトリングさんとニダウィちゃんがいるから、怪我無く切り抜けられましたが」
まあ確かに。初手に痛い不意打ち喰らったけど、立て直すのは難しくない。あの手この手を使えば聖騎士数人ぐらいはどうにかできる。もっと数がいれば、手数の差で押し切られたかもしれないけど。
無傷で余裕で切り抜けられたのは、四男オジサンと斧戦士ちゃんがいたからだ。そうでなかったらもうちょいダメージ受けて、ここまで余裕ある話はできなかったわ。
「単にこんだけしか数が集まらなかっただけじゃない? あの巨乳悪魔の無駄脂肪につられるスケベ聖騎士が集まらなかったとか。やっぱり大きいだけじゃダメってことよね」
うん。胸が大きいからだとか、そんなの関係ない。ちっちゃくても大丈夫。少し成長が遅れてる程度だし、ただそれだけだし。なんでアタシは気にしない。
「リーンがそんな中途半端な襲撃を仕掛けるとは思えません。むしろ無駄なことは極力避けるタイプです。ラバール司祭を魔物化しなかったのも、負けて当然の捨て駒扱いなためです。トーカさんをどうにかしたいなら、ここで戦力を投入するはずですし。怒りの矛先をラバール司祭に向けさせるために襲わせたのでしょう。
そう考えると私に接触してきたのも、その辺りを探るためだったのかもしれません。私の周りにいる戦力を見極め、ギリギリそれを押し切れる数を用意して襲撃させたのでは?」
「何の為にそんなまだるっこしい事するのよ?」
「おそらくは陽動、もしくは時間稼ぎです」
「陽動って……あの巨乳悪魔は今回は動いてないんじゃないの?」
この武器とか宗教問題とかにはあの悪魔は無関係。それはさっき出した結論だ。
「はい。だから別件で動いているんです」
「別件?」
「この騒ぎを利用してトーカさんの目をそむき、リーン本来の目的を果たそうとしているんです。おそらくそれは――!」
ガクン、と地面が揺れる。地震を思わせる大きな揺れ。そして轟音。
そして窓の外に黒光が2つ。
「ななななななんだあれはああああああ!?」
外から聞こえるベタな悲鳴に視線を向ければ、そこには二体の巨大な魔物がいた。
一つは巨大な樹木。顔らしいものが木の幹に見える魔物。
もう一つは月みたいな巨大な球形の岩に顔が付いたような魔物。
遠近法的に大きさは優に10mを超えるだろう。それが突然、街中に現れたのだ。
「……あれも、陽動?」
「おそらく。リーンの目的は――クライン皇子の魔王化です」
なんかいろいろ話が飛びすぎてるんですけど!?
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