25:メスガキはアンカーの事を考える

 この5流悪魔の策謀も大体わかって、残っているのもあと2つ。しかも狙っている相手がまるわかり。


 しかもそいつらは聖女ちゃんが呼び出して個別にお話をするという。その後で見張りをつけて監視。何かあったらアタシらが対処すればいい。相手の強さもレベル90超えの戦闘系ジョブが二人もいるのだ。らくしょー。


 何かあったらアタシが出張って、アンカーとかいうその変態を罵ればいい。キモイ相手のキモイ所をキモイと言えばいいんだから、楽なもんよ。


「ノット司祭。神格化の事でお話があります。貴方が唱える『清らかなる15歳までの童貞』を神にささげ、神格者とする説ですが」

「どどどどどどど童貞ちゃうわ! ……え? あ、その話ですか」


 教会の一室。そこに呼び出された司祭は聖女ちゃんの問いかけに思いっきりキョドってた。……うん、まあ、こういう所を罵ればいいんだなぁ、っていうのがまるわかりなのよね。


 ちなみにそのアンカー。魔物にしか見えないかと思ってたけどそうじゃなかった。自分のステータスを見たら、そんな項目が増えていたのだ。<フルムーンケイオス>にはなかった項目だ。他の人に聞いてみたら、そんなのはないという。アタシにしか見えないようだ。


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アンカー

嗜好:他人を罵る

主義:快楽

思慕:(乙女のプライバシーで秘密!)


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 これがアタシの『アンカー』。3つ目は非公開。絶対秘密。アタシが思慕とか、誰かを好きになるとか、ない。こんなの認めない。バグってるんだし誤解産まないためにも公開しない方がいいの。


 ……この話とは関係ないんだけど、なんとなく、意味もなく、理由もなく、聖女ちゃんを見る。アタシの視線に気づいて振り向き、目が合った。何故か頬が熱くなったりしたけど、首を振って熱を振り払った。関係ない関係ない。


 聖女ちゃん曰く、アンカーはその人間の根底にある物らしい。アタシの場合、他人を罵る事に喜びを感じ、楽したり気持ちよかったりすることを優先して動く。そんなところか。……だから思慕はバグ。


 おおむねその通りなので反論できなかった。人を馬鹿にするのは気持ちがいいし、ゲームで楽してレベルアップするのは気持ちがいい。甘いもの大好き、寝るの大好き。あとバグは無視。はいこの話お終い。


 これまでわかっているアンカーは『信仰』『目的』『劣等』『守護』『嗜好』『主義』『思慕』……精神的な心の芯。その人間が行動指針とする軸。想いの力。それが強ければ強いほど行動力があり、そしてそこを基礎として強力な魔物を植え付けられるという。


 逆に言えば、魔物を植え付ける条件として特定のアンカーが必要なのだろう。魔武器に装備条件にも、そんなことが書いてあったっけか。天騎士おにーさん辺りはわかりやすく正義を刺激されてたみたいだし、ナタは復讐心あたりかな?


 ちなみに四男オジサンは、


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アンカー

守護:オルスト皇国

主義:専守防衛

劣等:母


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 こんな感じの国を守る騎士タイプ。自分から仕掛けないのはまあオジサンらしいというか。あと劣等は……そう言えばマザコンだったわね。ママー、とか言ってたし。劣等なのは、お母さんに逆らえないとかそんな理由?


 そして斧戦士ちゃんは、


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アンカー

矜持:ミュマイ族

守護:アウタナと大地

尊敬:アサギリ・トーカ


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 これもまあ、わかりやすい感じだった。アウタナとその周辺を守り、家族を誇りにする。尊敬の名前にアタシの名前があるのは……まあ、いろいろ教えて上げたし、当然と言えば当然だし。でもちょっと嬉しい。うん、その、あれよね。恥ずい。


 ちなみにこのアンカー。四男オジサンや斧戦士ちゃん本人には見えないらしい。本当にアタシにしか見えないようだ。


 なお聖女ちゃんのアンカーを確認するためにステータス開けてって頼んだところ、


「イヤです」


 笑顔で拒否された。妥協の余地のない完全拒否の笑顔だった。


「他の誰に見られるのも嫌ですが、トーカさんだけは絶対にイヤです」


 アタシにだけは絶対に見られたくないという鉄の意志が感じられた。そこまで拒否される心の秘密って何なのか気になるわね。パーティ画面から確認できるけど、見たら泣いて一生口ききませんっていう圧力に勝てなかった。ガチだった。


「まー、いいわ。天騎士おにーさんみたいに『せいぎだいじ』とかその辺でしめられてそうだし。真面目ちゃんの心は予想つくわ」

「その辺りは別に見られてもいいんですけどね」

「じゃあ何を見られたくないのよ?」

「乙女の秘密です」


 にこにこと笑いながら答える聖女ちゃん。鉄の扉。爆弾でも開かない強固な壁だ。乙女の秘密って何よ?


 ちなみに他人のアンカーを知ってをアタシが何かに活用できるかというと、何もない。悪魔みたいに魔物を植え付ける手段なんて知らない。強いて言えば、的確に相手の芯をついて罵ることができるので効率よく相手をへこませるぐらいである。


 聖女ちゃんには拒否されたけど、何人かのステータスを見てもらってわかったことがある。


「……んー。見えない」


 全然知らない人のアンカーは見えないのだ。付き合いが長い人や、変態3司祭みたいに性格がある程度分かってる人のアンカーは見えるけど、初見の人は全く見えない。


「ステータスではなく、個人の性格をトーカさんが理解した瞬間にデータとして見えるんじゃないでしょうか? 『この人はこういう目的を持っている』と認識したとき、アンカーとして認識できると推測します」


 というのは聖女ちゃんの推測だ。確かにメイスおてても変態処女馬ユニコーンも最初はわからなかったけど、喋ってるうちにふっと見えてきた。その変態の変態部分をフラグ踏んで獲得して、ようやくその部分を攻撃できるという感じ?


「これが世界を滅ぼす力? この世界を作ったものをどうにかできる? 全然実感わかないんだけど」


 直接的な攻撃力があるわけじゃないし、便利でもない。スローライフするのにも役に立たない。悪魔が作ったモノを解除できるだけだ。5流悪魔はものすごい怒ってたみたいだけど、アタシからすればどーでもいい。


「……なんと、さっきの騒動は神に反する悪魔の仕業!? 童貞を愛する私の想いがそのような形で汚されるというのですか!?」

「はい。悪魔が何かしら言葉を投げかけきても、頑として拒否してください。私達は敵同士ではありません。思想こそ違えど、同じ平和を目指す者同士なのです」

「どうやら嘘ではないようですね。分かりました聖女様。できる限り協力しましょう。我が童貞の花園と、そして神の為に」


 思考を現実に戻すと、聖女ちゃんと変態童貞司祭との会話が終わったようだ。……司祭の言葉にいろいろヤな想像を掻き立てられるけど、聞かなかったことにする。この国の司祭の事だから、多分想像通りなんだろうなって思うといろいろ頭痛くなる。


「今ここで処分しといた方がこの国のためになるんじゃないかなぁ……」

「めったなことをいうものではありません、トーカ殿。彼らはこの聖堂や国を背負うやもしれぬ人材なのですぞ。魔に囚われぬようにするのが一番の策です」


 アタシの言葉に小声で忠告する4男オジサン。まあ言いたいことはわかる。分かるけど。


「ああいうのに支配された教会とか国っていうのは見たくないわ。王座とかにそういうの侍らしそうだし」

「独裁国家でなければ、家臣などがブレーキをかけてくれます」

「あのアホ皇子は思いっきり暴走してたじゃない。無実のアタシを投獄したり、聖女ちゃん洗脳したり」

「それに関しては恥じるばかりです。……あと、皇族を罵るのは控えていただけると……」


 周りを見ながら忠告するオジサン。見ると変態3司祭や童貞司祭……まあ、全員変態司祭でいっか。とにかくその辺りが何か言いたげにアタシを見ていた。聖女ちゃんと皇子の経緯を知っているから口には出さないが、看過もしがたい。そんな顔だ。


「なによぅ。あの皇子が全部悪いんだからね」

「国家としては何も言えないものなのです。トーカ殿も聡明ですから理解はされていると思いますが」

「はーいはい。宮仕えする人は大変よねー」


 オルスト皇国で働いているから、皇国そのものともいえる皇族を悪く言えない。犯罪を犯しても軟禁するのが関の山。歴史と慣習はすぐには代えられない。そんなことは理解しているわ。納得はしないけど。


「お次はラバール司祭ですね」


 童貞司祭が部屋を去り、次の司祭の面会が始まる。次はどんな変態が出てくるのか。全然楽しみじゃないけど。


「ラバール司祭と言えば確か――」

「アサギリ・トーカ、覚悟!」


 は?


『<高貴なる血族に神が宿る>という説を掲げた司祭です』……という言葉を耳にしながら、アタシは僧侶系攻撃魔法【神の鉄槌】の直撃を受けて吹き飛んだ。 

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