32:メスガキは北に向かう
<アサギリ・トーカ、レベルアップ!>
<イザヨイ・コトネ、レベルアップ!>
<ニダウィ・ミュマイ、レベルアップ!>
ファンファーレが鳴り、レベルが上がる。
「よし、目標達成。『ウェンディゴの視線』もゲットできたし、万々歳ね」
ふう、吐息をついてガッツポーズをとるアタシ。
もともとの目標であるアウタナのレベルアップ。その目標値であるレベル70まで到達したのだ。聖女ちゃんも斧戦士ちゃんも、同じぐらいのレベルになった。
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★アイテム
アイテム名:ウェンディゴの視線
属性:宝石
装備条件:レベル65以上。【キラキラしてる!】習得
魔力:+30 確率で<恐怖><喪失>がかかる。
解説:ウェンディゴの体内にある黒い宝石。心を病む力を得る。
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各種ステータスを下げる<恐怖>と、自力バステ解除不可の<喪失>を与える武器ね。装備条件の【キラキラしてる!】は遊び人【買う】のレベル6で得られるアビリティよ。スキルポイント的にも手が届く。
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★アビリティ
【キラキラしてる!】:宝石とかサイコー! 『武器:宝石』が装備可能になる。常時発動。
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宝石属性の武器は遠距離攻撃ができるので、HPが低いアタシにうってつけ。背後から相手を弱らせるとか、アタシにピッタリじゃない。
「……そうカ。じゃあ、トーカ達とはお別れダナ」
少し寂しそうに斧戦士ちゃんが言う。
レベルが上がったら一旦このパーティは解散。アタシと聖女ちゃんは悪魔族モンスターが多くいる北に向かい、斧戦士ちゃんは集落に戻る。それは前もって話していたことだ。
集落に残り、家族を守る。斧戦士ちゃんはそのために強くなった。だから、旅立つアタシ達とはこれでお別れだ。
「なに、寂しいの? だったらついてきたらいいのに」
「まさカ。グータラなトーカと別れて、規則正しい生活に戻れて嬉しいだけダ」
「そう。アタシもいきなり突撃して転ぶアンタと別れれて、気が楽になるわ」
「ふふ、そう言えばそんな出会いだったナ」
アタシの嫌味に笑みを浮かべる斧戦士ちゃん。
「遊び人に当てることすらできなかったへっぽこが、単独でウェンディゴ狩れるほどになるなんてね。もう【ハロウィンナイト】の援護も要らないわね」
かつてはアタシの援護がなかったらダメージが通らなかったけど、もうそんなことはない。このあたりのモンスターなら、先ず負けることはないだろう。ムワンガドラゴが復活したとかなら一人だとやばいかも? それぐらい強くなった。
「当然ダ。ダーはミュマイ族の戦士だからナ」
それは斧戦士ちゃんの誇り。家族。戦士。そのために強くなった。
「そしてトーカの友達で弟子ダ。だから、強くて当然ダ」
「……っ、トーゼンよ」
そんな事を言われて、ちょっと泣きそうになった。
アタシが鍛えたアタシの友達。がんばって頑張って、強くなった子。アタシは道を示しただけ。その道を歩いたのは、間違いなくこの子だ。アタシを信じて、迷うことなく歩いてくれた友達。
「また会おう。トーカ、コトネ」
斧戦士ちゃんは言って拳を突き出した。
「はい。ニダウィさんもお元気で」
「ま、気が向いたら戻ってきてあげるわよ」
「もう。どうしてそこで素直になれないんですか」
「ウン、トーカらしい」
言ってアタシ達は拳を重ねる。
こつん、と重ねた感触をアタシは忘れないだろう。
「集落には寄っていかないノカ?」
「アイテムもたくさんあるし、このまま行くわ」
「はい。寄ると別れがつらくなりそうですし」
「そんなわけないでしょ。効率重視なだけよ」
「そうカ。じゃあ、またどこかで会オウ!」
そんな別れの言葉。明日また会えるように、さりげない言葉。手を振って、振り返らずに歩きだす。
「寂しくなりますね」
「鬱陶しいのがいなくなるだけよ」
アウタナに続く川沿いに北上するアタシ達。斧戦士ちゃんとの旅を思い返すように。
「そうですね。ニダウィちゃんもそう思ってるかもしれませんね」
「お互い清々して、いい感じじゃないの」
へへーん、と伸びをするアタシにハンカチを差し出す聖女ちゃん。
「今なら誰も見てませんよ」
「……………………うん」
アタシはハンカチを受け取って、涙をぬぐう。前もってわかっていたし覚悟もしてきたけど、実際に別れるとなるといろいろ耐えられなかった。
「アイツ、強くなったよね」
「はい」
「これからも大丈夫だよね」
「ええ、もちろんです」
「アタシ情けないなぁ。こんなに泣いちゃって。こんなところ見せたら、幻滅されるよね」
止まらない涙を拭きながら、道を歩く。一か月にも満たない旅の仲間。なのにこんなにボロボロと泣いちゃって。こんなの、アタシらしくないってわかってるのに。
「ニダウィちゃんも同じぐらいに泣いてますよ」
「本当に?」
「はい。間違いありません」
「……だったら、いい」
アタシと同じぐらいに泣いてくれるのなら、次会った時も同じように出会える。口喧嘩して、そして笑いあえるだろう。
「今度会った時はレベルを思いっきり上げて、もう一回よわよわ斧戦士って罵ってやるわ。見てなさいよ」
涙をぬぐい、前を見る。やる気と共に宣言し、アタシは歩を進めた。
「そこまで言わなくてもいいと思いますけど」
「ふふーん。あのあたりのモンスターのレベルは今から行くアルビオンよりも弱いもん。だからそこでレベルアップするアタシの方が強くなるのは道理なのよ」
「アルビオン……そこが次の目的地ですね」
「そうよ。かつては妖精と戦士が納めてたらしいけど、今は悪魔族が占領する島国。敵のレベルも一気に跳ね上がるからね」
「はい。よろしくお願いしますね」
聖女ちゃんはアタシの手を取り、微笑んだ。アタシも思わず微笑む。握った手に力を込めて、川を進む。
斧戦士ちゃんと出会った場所にたどり着く。そこでアタシはアウタナの方を向き、大声で叫んだ。
「がんばれニダウィ! 一番の戦士になって、ミュマイ族とアウタナをしっかり守りなさいよ!」
答えは返ってこない。こんな場所で叫んだ言葉が、はるか遠くにいる斧戦士ちゃんに聞こえるはずがない。
でもそれでよかった。アタシの言葉なんかなくても、あの子は頑張るだろう。あの子は家族と戦士に誇りを守るだろう。アタシには理解できない価値観だけど、その生き方は尊敬できる。
「さあ、アタシ達も頑張るわよ。悪魔倒してガンガンレベル上げるんだから。目標はレベル85。レアアイテムもゲットしてやるわ!」
「はい。一緒に頑張りましょう」
アタシの言葉にうなずく聖女ちゃん。一緒に強くなって、そして魔王を倒して。そっからどうするかは決めてないけど、きっとどうにかなる。
<しかし忘れるな、遊び人。このままではいずれ人類は滅びる。他の世界から来た汝も、そしてこの娘も、等しく混沌の渦に帰るだろう>
<真に悪魔を廃するのなら、神の顕現は必須と知れ>
脳裏に浮かんだのは、神とかが言った言葉。この世界の人間はみんな悪魔に殺される。それを止める為には神が高レベルの人間の体を借りなくてはいけない。天秤神とやらは聖女ちゃんを奪わなかったけど、
<罪を許す
他の神は、聖女ちゃんを乗っ取る可能性がある。
大丈夫。きっと大丈夫。根拠なんてないけど、きっと。
「一緒ならどうにかなるわよ」
不安を打ち消すようにそう呟いて、聖女ちゃんの手を強く握る。
二人なら、きっとどんなことでも乗り越えられると信じて――
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