閑話Ⅱ
十六夜琴音はこの世界を考察する
トーカさんはこの世界を<フルムーンケイオス>だと言っていました。なんでもそのゲーム世界そのもので、ステータスやアビリティとかは全部熟知していると。
それにウソはないのでしょう。実際、トーカさんの知己には助けられています。『知っている』という経験だけではなく、それを基として動く行動力は見ていて頷けます。
なのでこの考察は、トーカさんから聞いた知識を基に私――十六夜琴音が考えたものです。正しいかどうかなどわかりませんし、あくまで感じたことをメモしている程度です。
ステータス。
ステータスは、この世界の人達全てが認識していることです。人間の能力を数値化し、またその人間が持ちうる技術や能力を表しています。
そしてそれはこの世界ではない『英雄』と呼ばれる私たちにも当てはまるようです。
私はまだ幼い子供の女性で、成人男性に力でかなうわけがありません。例外はあるかもしれませんが、常識的に言えば成人男性と私とでは力の差は歴然です。
ですが、ステータスの数値で優っていればそれは逆転します。私のような細腕でも、成人男性に勝るだけのパワーが得られます。
また同時に魔法という技術も使えるようになります。当たり前ですが、私は魔法というものは知りません。歴史上、宗教で弾圧された民俗学的な思想や技法などを魔法と呼んでいたことは知っていますが、魔法そのものが実在するとは思ったこともありません。
ですが、この世界の私はそれを使うことができます。<収容魔法>と呼ばれるよくわからない空間に物質を収納し、それを自在に取り出すことができる。私はその理論を正しく理解していないけど、使うことができます。
それは呼吸の仕方を知っているのと同じ感覚です。不随意運動……とはまた意味合いは異なりますが、誰に教えてもらうまでもなく知っている。この感覚はこの世界に来た時から感じています。
推測ですが、ステータスとはパワードスーツのような目に見えない鎧なのではないでしょうか?
そのステータスを『着る』ことにより、筋力や魔法のような本来の私ではありえないことができるようになる。私やトーカさんのような子供でも、オーガのような巨人に挑むことができるようになる。
とても人間の技術とは思えません。魔法と呼ばれる存在だと仮定しても、疑問は残ります。誰が? どんな理由で? しかもこの世界に来た時にはすでに『着せ』られていました。違和感を感じる余裕もなく。
魔法と言えば、この世界は文明的にも十二世紀のヨーロッパに近い文明レベル。病気の正体もわかっていないのに、解毒薬や致命傷を癒すほどの薬品の存在があります。これらもまた、このステータスを癒すためだと思えば、納得もできます。人体を癒すのではなく、『ステータス』の数字を癒してそれが結果として人を死から守っているのでしょう。
死。
HPと呼ばれる存在。これがある限り死なないのだと、トーカさんは言いました。
何度かHPが大きく削られる事態が起きました。私はオーガに何度も殴られ、トーカさんも暗黒騎士に何度も切られ。
普通なら死んでいるのでしょう。HPと呼ばれる数値が減って死ぬことはなかったですが、痛みは確かに感じました。トーカさんも痛そうにしていました。
下手をすれば痛みで精神が摩耗することもあるし、事実ルーク様との戦いでトーカさんの精神は危ない状態だったと思います。肉体的には致命傷を免れても、精神的には何度も致命傷レベルの痛みを繰り返されていたのですから。
『ステータス』が目に見えない鎧なら、その数値の一つであるHPは生命を守る装甲のようなものなのでしょう。死から着用者を守るための力。あるいは魔法。あるいは、呪い。この数値が0にならない限り、死なない呪い。
その呪いのせいか、トーカさんは何度も苦しむことになりました。いえ、死んでほしいと思ったわけではありませんしむしろ生きていてくれて嬉しいです。ですけど、何度も『殺され』ても死ぬことができないのを見るのは、つらかったです。
あの暗黒騎士は、私が何度殴っても私のほうを見ずトーカさんだけを切り続けたのですから。それがルーク様が抱いたトーカさんへの思いからくるのなら、やはりここで断(黒く塗りつぶされた跡)――閑話休題。
……仮に『ステータス』が着せるなりなんなりのもので、要はただの人間に与えることができるというのなら。
『悪魔の契約』はそういうことなのではないでしょうか? ルーク様に暗黒騎士の『ステータス』を着せたのだと。そしてその『ステータス』のままに暴れたのではないでしょうか?
まるで、暗黒騎士という
怖い。
それは『ステータス』に操られているのと同じです。役割を演じさせられて、自分自身を失うのと同じ。
今、ここにいる私は本当に十六夜琴音なのでしょうか?
もしかしたら『ステータス』に操られて、誰かの都合のいいように操られているのではないでしょうか? 十六夜琴音だと思っている私は、実は『聖女のステータス』ではないと誰が言いきれるのでしょうか?
私は本当に、私なのでしょうか?
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