3:メスガキはレベリングする

 アタシはなけなしのお金で消耗品を買った後に、街道を歩いていた。

 街道から少し離れた所ではイッカクコウモリ相手に戦う人達がいる。剣士と魔法使いの二人パーティ。おそらく駆け出しかな。イッカクコウモリ相手に必死になってる。


 あれがこの<フルムーンケイオス>の一般的な初心者英雄。英雄召喚の儀式で召喚された人達で、初期装備となけなしのお金をもらって、城の外に放置。

 ゲーム設定とはいえ、ひっどいわよねこれ。勝手に召喚して、碌に世話せず捨てるとか。


 ちなみに一般的な初心者戦士の筋力が武器補正いれて10ぐらい。それでレベル2のイッカクコウモリを3回で倒せる計算だ。

 今のアタシだと、ダメージを与えられるかも妖しい。それぐらいの力の差がある。筋力2だもんねー。か弱いもん、アタシ。


「あの聖女ちゃんはお城で大事にされてそうだけど……でもどうなんだろ? 『聖女』は成長するまでがたいへんなんだけど」


 一緒に召喚された子の事を思い出す。ザンネン皇子の言葉に乗せられたのか、かなりやる気になってた。


 なにせ『聖女』はレベルアップにかかる経験点が高い。レベルが上がるにつれて、より多くの経験点が必要になり、80を超えると桁が跳ね上がるって聞いたことがある。


 さらに言うと、技能所得も大変だ。【聖魔法】【聖歌】【聖武器】【聖言】【聖人】の5つのスキルがあるけど、スキル係数が全部10と最大級。初期のスキルポイントが50点だから、一点集中でも2レベルにするのが限界。


 その分レベルを上げるともらえるアビリティもすごいんだけど、レベルが上がりにくいから中々その恩恵にあずかりにくい。

 あまりのマゾ仕様に引退する人も多かったぐらいだ。


「ま、どーでもいいわ。サクッとレベリングしましょ」


 街道をまっすぐ進み、しばらく行って道を外れて山岳に向かう。ここまではモンスターもアクティブにこちらを狙ってくるものはいない為、平和な道のりだった。


 だけど、ここからは違う。オルストシュタインから離れればそれだけ危険度の高いモンスターがいるわ。ある程度成長した英雄でないと、襲われて死んでしまう。


「ほう。こんなところに子供が。道に迷ったのか?」


 そんなアタシに声をかけてくる人がいる。そっちの方を見ると、重戦士っぽい人がいる。両手持ちのハンマーに金属鎧。見るからに筋力特化の戦士だ。


「しかも遊び人とはな。戦えぬ者は狩りの邪魔だ。町に帰って大通りで芸でもしているんだな」


 言って追いはらうように手を振る重戦士。それを無視してアタシは道を進む。あー、うんうん。遊び人の一般的評価ってこんなもんよねー。


「無視するとは失礼な。大人の言う事には素直に従うものだぞ。そもそも挨拶もできないというのはよろしくない。ヘルトリング家の名に懸けて、マナーを教えてやろう」


 重戦士サンはあたしの肩を掴む。うわ、キショい。上から目線で忠告するとかマジ何様。


「ありがとー。でも大丈夫よ。オジサンこそ気を付けてね」


 アタシはその肩を振り払い、完全無視を決め込んで道を進む。


「だ、誰がオジサンだ! 吾輩はまだ30代だぞ!」


 じゅーぶんオジサンじゃん。ひらひらと手を振って、山の中を進んでいく。


 そろそろのエリトリー内だ。そう思った頃に、茂みの中からガサゴソと音を立てて現れる。


「へっへっへ、金目のもの置いてきな」


 錆びた斧と皮鎧。頭に緑色の布を巻いた40歳ぐらいのおじさん。

 山賊だ。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


名前:バンディット

種族:人間

Lv:12

HP:42


解説:いわゆる山賊。徒党を組み、人を襲う悪党。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 意識して目を向けると、簡素な表示が表示される。うーん、ゲームっぽい。<フルムーンケイオス>と同じ仕様だ。

 人間なんだけど、モンスター扱いされているのはファンタジー。


 ちなみに強さ的には『命中は低いけど、打撃は強い近接攻撃』タイプ。さっきの初心者戦士が挑むと二回殴られたら危険領域になる強さね。あたしがあの斧を受ければ、一発アウト。超オーバーキル。

 憐れトーカの冒険は終わりを告げ、可愛いアタシは山賊たちの慰み者になるの……。


「はぁ? バカじゃないのオジサン。こんな子供にお金を恵むとかアリエナクない。ヒジョーシキなのよ。存在自体が」


 まあ、そんなわけないんだけどね。


「なんだとテメェ! ぶっ殺す!」


 斧を構えてこちらに突撃してくる山賊オジサン。あたしはナイフを構えて、


「あはぁ。ぶっ殺すとか、ダサすぎ。ねえねえ、もう少し考えて喋ったら?」


 アビリティ【微笑み返し】発動っ! 口に手を当てて、笑みを浮かべるアタシ。その瞬間、山賊オジサンに<困惑>のバッドステータスがかかる。


「な、な、な……! このガキぃ! この俺が、ダサいだと!」


「殺すとか金置いてけ以外に相手を脅す言葉知らないんでしょ? もー、その時点でだっさださ。言葉知らないんだから、豚小屋で鳴いてたほうがまだ同情貰えるかもよ。ほら、ぶー、ぶー」


 顔を真っ赤にして斧を振るう山賊オジサン。だけど<困惑>のバッドステータスの効果で命中が下がっているので、アタシには当たらない。


 バッドステータスは最大30秒までしかかからない。それまでにキャラごとの耐性で回復することもあるんだけど、山賊のオジサンたちはその耐性がゼロなのだ。


 なので30秒間、山賊オジサンの攻撃はほぼ当たらない。その間、アタシは好き放題攻撃できるのだ。


 とはいえ、あたしのナイフではまともにダメージは通らない。避けられたり皮鎧に阻まれたりで、ダメージはろくに通らない。


「オジサンガチガチ。かたーい。だ・け・ど――」


 だけど、そんなアタシの攻撃でも時折皮鎧の隙間をつくこともある。


「きゃー、ココ、弱いんだ」


 クリティカルヒット。発生確率は装備と幸運値に依存し、絶対命中防御力無視の攻撃になる。


 アタシの武器補正を加えた最終的な攻撃力は3。なので山賊オジサンに3点ダメージが入る。オジサンのHP42を削り切るのに12回クリティカルヒットを出せばいい計算になる。


「ガキが。そんな細腕で大人に歯向かおうなんて無駄なんだよ!」


「やーん、オジサンこわーい。トーカ、泣いちゃいそう」


 えーんえーん、とうそ泣きをしながら再度【微笑み返し】。泣きまねをして、ペロッと舌を出す。


【微笑み返し】に必要なMPは1。アタシのMPは4。

 都合120秒。約2分間山賊オジサンは<困惑>状態だ。その間に12回クリティカルヒットを出せばアタシの勝ちだ。


「クソガキが! 大人を舐めてたらただじゃ済まねぇぞ! 泣いて謝るまで殴り続けてやる!」


「オジサンの顔舐めるとか、そんな汚い事できないもーん。あ、もしかしてそういう趣味? トーカに色んな所を舐めらたいロリコンさん?」


「んわけねぇだろうが、チビ! ああ、でもそういう仲間はいるな。子供じゃ知らないお仕置きでヒィヒィ言わされるぜ」


「うわ、いるんだ。サイアクー。で・も、オジサンはもう死んじゃうもんねー。かわいそーかわいそー」


「くそ、ふざけるな! なんで当たらねぇ!? なんで避けられねぇ!? こんなガキ捕まえるのに、どうしてこんなに……!」


「がんばれ、がんばれ。あともうすこしだよ。もーすこしで、トーカにお仕置きできるよ。ほぉら、ふぁいと、ふぁいと」


「なんで、なんで、なんで、なんで、なん…………っ!」


 102秒後、山賊オジサンは力尽きた。最後まで必死になって、かーわいー。そのまま力尽きて、トーカの経験値になってねっ。


<アサギリ・トーカ、レベルアップ!>

<アサギリ・トーカ、レベルアップ!>

<アサギリ・トーカ、レベルアップ!>

<アサギリ・トーカ、レベルアップ!>

<アサギリ・トーカ、レベルアップ!>

<アサギリ・トーカ、レベルアップ!>

<アサギリ・トーカ、レベルアップ!>

<アサギリ・トーカ、レベルアップ!>


 ファンファーレと共にレベルアップの祝砲が脳内に響く。レベル9まで一気に上がったみたい。


 これが遊び人のレベリング。んー、きもちいー。


<条件達成! トロフィー:『格上殺し』を獲得しました。スキルポイントを会得しました>

<条件達成! トロフィー:『勇猛果敢』を獲得しました。スキルポイントを会得しました>


 そして特定の条件を満たしたことで、トロフィーが手に入った。スキルポイントも。きゃー、うれしー。


 まあ、予定どおりなんだけどね。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


★トロフィー

格上殺し:自分より5以上レベルが上のモンスターを倒した者に与えられるトロフィー。自分よりレベルが上の相手に対するダメージが常時上昇。

勇猛果敢:自分より10以上レベルが上のモンスターを倒した者に与えられるトロフィー。自分よりレベルが上の相手に対するダメージが常時上昇。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 これでレベルが上のモンスター相手だと、かなりダメージを与えられるようになった。筋力が低いアタシにとって、この効果は嬉しい。

 これでオジサンを倒すのが楽になった。


「まっててね、山賊オジサン。トーカがたーっぷり遊んで上げるから」

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