青春最中、青春を懐古。
@Hiyomaro
第1話
太陽が街の端から覗く
1年生の春に買ってもらった目覚まし時計を止め、今にもまた閉じようとする目を擦りながらも布団を抜け出す。いつものTシャツに着替えサンダルを履き、照り付ける猛暑がまだ目を覚まさぬほど静かな住宅街を駆ける。
薄紫色の空を仰ぐ中学校の校庭は人々と共に
毎日同じ声が陽気に何処かの県の初めて聞く町の様子を伝えている。前の人たちの動きを真似て体を適当に──相変わらずラジオからの指示とは鏡合わせの向きに──動かしながら、今日も飽きずあのゲームの情報交換をする。ゲームとは関係ないが、「夏休みの友」討伐タイムアタックの自慢の流行は3日前には終わったようだ。
冬の日にとっておきたいような空気の中Tシャツに汗が
気が付けば健康な男の声がその終わりを告げ、いずれお菓子セットと化す
午後1時にあの携帯ゲーム機を持って例の公園で集合する口約束をした私たちは校門の人混みを抜けた。
誰が住んでいるのかも知らない家が立ち並ぶ
朝のテレビを見ながらキンキンの麦茶と共に形容し難い種類の美味しい匂いのするトーストを1枚食べていた。一口食べるごとに今日起こるだろう楽しいことが次々と思い浮かぶ。
みんなと浴びるプール前恒例の地獄のシャワーに学校に禁止されているコンビニでの買い物。今夜も音を立てないように布団の中でするゲーム。公園でのカードバトルやサッカーの情景。ああ、公園でサッカーしたらこの前6年生のボールに家の壁を壊されたおばさんが怒鳴り込んでくるんだっけ。
ごちそうさまの後に歯を磨いて顔を洗い、読書感想文に買ってもらった本は放置してそれと同時に買ってもらった月刊コロコロコミックに手を伸ばす。1日で隅々まで読み切ったそれを今日もなめ回すように読み、どれを
気が付けばそろそろ出発の時間だ。毎日忘れかける体温計測をした後にプールバッグを背負い、「行ってきます」の元気な声と共に学校に向けて飛び出した。
目を覚ますと私は座っていた。時にキノコと
朝の中学校の校庭にいつもいた名前を知らない彼らの顔も思い出せず、貰った後に満足感に顔をゆがめる程笑った200円もしないお菓子セットには価値を見出せない。あの頃夢中で何時間もしていたゲームは起動することすらないしあの公園に足を踏み入れることもない。家の周りの道など歩いていても何も面白くない。Tシャツと短パン、ボサボサの髪で家を駆けだす、好奇心と活力と希望に満ち溢れた頃の私は当の昔にいなくなってしまった。
疲れた人々をありったけ詰め込んだ、散々叫ばれる感染対策も
人々が「青春」と呼ぶ今を生きている私たちの日常は予想外の
昔の私の人格はとうに失われた。だがどうだろう、あの頃の一種の「青春」と呼べるであろう記憶は今でも私に強く残っている。あの頃共にいた彼ら、今はLINEやインスタ程度は繋がっているがあの頃ほどの時間は共有していない彼ら、私と同じように当時の価値観や感受性を投げ捨てて良くも悪くも変わり果て、成長した彼ら。彼らがもし私と過ごしたあの日、あの時間を忘れていたとしても。私さえもその場にいた全員が忘れ去ってしまった時間があったとしても、それがあった事実は現在の私たちを形作る要素の一部なのではないか。
納得のいかないこの日々だが、その中で多くの出会いがあり、経験があり、苦悩があった。他の世代が送ったものより制限が多く異常なこの日々も、いつか我々にとっての青春時代として思い出せる日が、未来の私を形作る事実となる日が来るのだろうと信じる。そうでもしなくちゃマジでやってらんねえ。
私はこの日々が、まずはこれから始まろうとする今日が誇りを持っていつかの未来に「青春」の記憶になれるように願いながら改札を出た。
相変わらずの曇り空を目に焼き付けながら私は歩きだした。
青春最中、青春を懐古。 @Hiyomaro
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