気怠い春に移ろいて
折葉こずえ
第1話
第1話
ボッチの定義とはなんだろうか。ボッチにも幾つか種類があると思うんだよね。僕が思うにおおよそ3種類に分けられると思うんだ。
①地味で根暗でコミュ障で友達が作れない奴。きっとコレが世間一般に認識されているボッチのいわゆる典型だと思う。異論は認める。
②コミュ障では無いけれど性格が悪かったり、場の空気が読めない発言だったりと自然と距離を置かれてボッチになる奴。これが一番惨めだと思う。
③とにかく他人と関わりたくなくて自分から距離を置く奴。話しかけるなオーラを全開に放出して学園生活を送る。これが僕のタイプ。
んで、僕の横に座っているこの根暗な少女。これは①のタイプだな、間違いない。どこで買ったんだよっていう位存在感のある黒ぶちの眼鏡。顔の3分の2を覆っているんじゃないかと思える位のデカいマスク。殆ど目が隠れそうな前髪。あまり手入れされてなさそうな肩まである黒い髪。膝が隠れちゃうんじゃないのっていう位中途半端な長さのスカート。手にはお約束のラノベ小説。
僕も眼鏡をかけているけれど、流石に流行に則した物を選んでいる自覚はある。だけれど、彼女は敢えてダサイ物を選んでいるのだろうか。普通、フレームを選ぶときに店員に何かアドバイスされると思うのだけれど。
まあ隣からヤイヤイ話しかけられるよりは全然マシなので正直ラッキーだと思った。
3年生になった新学期のこの日、クラス替えがあり僕は3Bに配属された。高校生のクラス分けに配属という言葉を使って良いものか判らないけれど他に言葉を知らない。クラス替えと言っても僕らはもう3年生で、これまでの2年間で出会って来た友達や友達の友達とか、またその友達とか、部活の仲間やその友達とか。クラスが再編成されても顔見知りが居たりと誰かしら会話する人間がいるのだろう。クラスではみんながワイワイやっている。僕と隣のボッチ少女を除いて。
僕は昔から人と会話をする事が面倒くさかった。いちいち顔色を伺って『会話』と言う物を行う意味が解らないし効果も曖昧だ。話題を捻り出す事だって億劫だしそれに、親しくなればなるほど……。
他人を遠ざけひたすら自分の世界に浸る。『アイツは誰とも話さないし仲良くもならない』という僕のキャラクターを同級生達に認識して貰うのに1年近くは掛かっただろう。ようやく手に入れたこのポジション。僕は心底居心地が良かった。
始業式が終わり再び教室に戻った所で担任の先生が教室にやってきて自己紹介した。はっきり言ってどうでもいいし興味もない。その後当然やってくるクラスメイトの自己紹介。これが一番嫌いだ。幸い僕の
「
うーん、平凡な名前だと思いつつも田中花で止まって良かったねって思った。田中花子だったらなんかもう不憫で不憫で。
とは言っても僕も自分の名前に不満がある。
その後僕の番になったので自己紹介をそつなくこなす。と言っても名前を皆に告げるだけの儀式。余裕余裕。
教室は窓際から女子、男子と交互になっている。僕の席は窓側から4列目の前から4番目。一番後ろが良かったけれど、まあ一番前にならなかっただけ良かったとしよう。
「日直は出席番号順に男女のペアで行っていってもらう」と先生。
ふーん、と聞いていたけれど、恐ろしい事に気付く。と言う事は僕は花子さんとペアじゃないか。なんてこった。こんな根暗な少女と日直をするのか。まあ僕たちの当番が来るまではまだ数日ある。それまでに対策を考えておこう。
僕の高校は神奈川県にある私立旭第一高校っていって割と伝統のある学校らしいんだけど、別にここに来たくて入学した訳じゃなくて、ただ単純に家が近いって事と姉がこの学校に通ってたから僕も脳死で来ただけ。因みに僕には2歳年下の妹もいるんだけど、彼女も脳死で今年この学校に入学した。この学校は大学の付属高校で大学も脳死で進学出来るメリットがあり色んな事を考える事が面倒くさい僕にとってはぴったりの学校だと思う。考えるのが面倒くさいのはきっと遺伝なんだろう。
始業式の今日はもうこれで学校は終わり。HRが終わって担任が出て行くとみんなが一斉に立ち上がりワイワイガヤガヤと教室を出て行く。僕は人込みとか混雑が大嫌いなので教室が捌けるまでいつも時間を置く事にしている。それに僕は帰宅すると言う行為が凄く怠いのだ。満員電車に揺られて帰宅する工程を想像するだけでげんなりする。
頬杖をついてぼんやりと窓の外を見ていると、先ほどから何か暗黒の物体が視界の片隅に入っている事に気付く。今さらながらそちらに焦点を合わすと花子さんが机で本を読んでいた。まだ帰んないのか。まあどうでもいいけど。僕が彼女の方に体を向けているのが気になるのか先程からチラチラ僕を見る様な視線を感じる。なんだよ気にすんな、僕は空気なんだから。
「あ、あの……」と彼女は僕を見て話しかけて来た。え? 僕? 僕は答えず目玉だけを彼女の方に向けた。
「なな何なんですかさっきから気になって本に集中できないんですけど!」
早口すぎて聞き取れない。彼女は本に顔を向けたままジト目で僕を睨んでくる。僕が花子さんを見つめていると思ったのであろうか。自意識過剰な子だな。
「別に花子さんを見ている訳じゃないよ」と一応弁解する。
「むむ無論そんな事は解っていますがははは花子さんて花子さんて花子って誰ですか私は田中花です子は要らねーっす必要ありません止めてください花子さんなんてアレですかトイレの花子さんですか学校のオバケですか私はホントに」
「はあ……どうもすみません……花さん」
普通の会話で無論って言葉を使う人初めて見たし、彼女の言葉を聞き取れた自分が凄いと思った。
僕は「はぁー」とため息を吐いて花子さんの左隣の席に移動した。誰の机か知らないけど、どうせもう戻って来ないから大丈夫でしょ。「はぁー」とまた頬杖を付いて窓の外を眺める。帰るのメンドクセ。「はぁー」
校庭の桜は既に半分以上花が散り緑の部分が多くなっている。
「はぁー」 家が学校の隣まで来てくれたら楽なんだろうなあ……。「はぁー」
「はぁーはぁーはぁーはぁーウルサイですねそっち移動してもウザさ変わんねーっすけど何なんですかマジうぜーんすけど」
「はぁー……」お前も大概うぜーよとは口に出せず、「何読んでんすか?」と背中を向けたまま尋ねる。
「関係ねーし関係ねーしほっといて下さいですよ人がどんな本読んで様が勝手でしょ兎に角本読んでんすから邪魔しないで下さいですよ」
「飴でも食べますか?」と僕は彼女に向き直りポケットから飴玉を出す。
「え?」
「色んな味あるよ。僕はこの緑のが好きですけどね」と言って個包装を破ると口にぽいっと放り込んだ。
彼女は「あ、ありがとう……」と言って赤いのを撰んで手に取った。
「じゃあ、邪魔したね」と言って僕は立ち上がり自分の机の鞄を手に取って廊下へ向かう。「はぁー」
「あ、あの……」と背後で声が聞こえた気がした。
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