犬より弱い私

つきよみ

第1話

夕方17時すぎ、近所の工場のバイト終わりで犬の散歩をするのがここしばらくの日課。

納屋の戸を引くとシロが待っていて、早く行こうと飛びついてくる。

桜のシーズンがとっくに終わり池の周りの散歩道は人気がなく、ゆっくり歩くことができる。

クリーム色の長い尻尾を左右にゆらゆら、時々こちらを見上げてご機嫌で歩くシロと対照的に私の気持ちは暗くなる一方。やる気の全く起きなかった大学受験に当然失敗し、この春高校を卒業した。今後の進路を決めかねてとりあえず近所でバイトを始めてみたものの今現在、全く何か将来的なことを始めたいとも思い浮かばず、親には浪人生活に早く入るようにせかされている毎日。周りの友達は進学して大学生活を楽しんでいたり、就職して仕事に慣れるため日々忙しく、自分のように全く何も決まっていないものはいない。

大きくため息をついて雑草の上に寝転んで遊んでいるシロの毛にからみついたひっつき虫を大雑把に引っこ抜いて、立たせて歩かそうと綱を引く。いつもは従うシロが動こうとせずに熱心に私の足元をなめ始める。「シロ!靴下がべちゃべちゃになるからやめて!」と叱るがやめようとしない。無理やり頭を上げさせると舌の上にひっつき虫をのせて無邪気な表情でこちらを見上げている。なぜか涙がでてきて止まらない。しばらく動くことができずにいた。最初シロは不思議そう見ていたが、やがて散歩に飽きて早く帰ろうとせかすように綱を引っ張りはじめた。

帰り道、泣きながらトボトボ歩く弱い私を力強く先導するシロがいた。

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