第6話 ゆるゆるなでなでアーム
私はハイエルフのクリフトス・アーガラー。親しい者はクリフと呼ぶ。
さてさて、困った。
一回無料クーポンを使ってクレーンゲームをプレイしてみたところ、この台のアームはゆるゆるなでなでアームだ。私がゆるゆるなでなでアームと言うアームは、景品を微かにさえ持ち上げもせず、ツメが景品の横をそっと優しくなでていき、一切動かさないモノのことである。普通はなでアームと言う人が多い。
問題なのは、この台には我が愛しのにゃにゃタロがいる。
最新の人気景品は回収台と言い、客は散財させられる。世知辛い設定を通りこして鬼畜台と呼ばれるレベルになっていることが多い。
続けるか、やめるか、今が決断のときだ。
いや、本当はゆるゆるなでなでアームの場合、やめる一択なんだけどね。
やめる一択のはずなんだけどね。
これがお菓子とかならすぐさま去っていけるのに。
このマシンの前から動けなくなっている私がいる。
冷静になれ、私。
何で百円玉じゃらじゃら握りしめているんだっ。
手を止めろっ。
「クリフさん」
「お、クマゴローではないか。おぬしも遊びに来たのか」
「ずっとこのマシンの前にいたようだけど、どうかした?」
クマゴロー、いつから見ていた?
まあ、プレイしている最中に話しかけるのはマナー違反だ。プレイする前から友人同士で盛り上がっているのならともかく、急に後ろから話しかけられたら、ビクッとしてボタンから手を離しかねない。
「実はこの景品が欲しいのだが、一回やったがゆるゆるなでなでアームだったんで、続行するか悩んでいる最中だ」
クマゴローが台を見る。
景品はにゃにゃタロがかわいく描かれている吸引式虫取り器。これからの季節ちょうど良いよね。
箱もの。二本の棒の橋渡し。棒にはきっちりと滑り止め。
「クリフさん、一回やったって言ってたけど、どこを狙った?」
「どうせバランスキャッチはできないと思ったから、箱の手前の方で、右ツメを箱に寄せて動かそうと思ったんだが」
「アームはどのくらい開いたか覚えている?」
「あのアームが曲がっている部分まで開いた。そう、アームが下がるときすこしクイっとなったな。右ツメが少し前に出て」
手でクイっとこんな感じとやってみせる。
「ああ。じゃ、試しに」
クマゴローは百円をそのマシンに入れた。
クマゴローのいつもは閉じているのか開いているのかわからない目が見開いた。
おおっ( ゚д゚)
いや、注目するのはそっちじゃない。
アームの横移動は、アームの曲がっている部分が箱の延長線上で止まった。
クマゴローはマシンを斜めから覗いたまま、奥移動させるためボタンを押す。
( ✧Д✧) カッ!!
右ツメが辿り着いたのは、箱がほんの少しだけ、そうほんの少しだけ棒からはみ出ている角にピンポイントに来た。左ツメは棒に当たっている。
ガッ、と箱が動く。
「おおっ、動いたっ」
「うん、この台はなでアームとは言っても、まだ何とかなる方のなでアームだね。もっとひどいのは最善の一手を入れても、絶対に動かないモノもあるからね」
それは、うん、もうどうしようもないな。
私はその後クマゴローの指導の下、何とかにゃにゃタロを手に入れた。
景品を袋に入れ、大切に抱える。
「ありがとう、クマゴロー。この礼は、私特製シャンプーを作って進ぜよう」
「シャンプー?」
「その髭も洗えて、ゴワゴワをフワフワつやつやキューティクルにする優れものだ。一回使ったら手放せなくなるぞ。では、明日な」
私はゲームセンターを後にする。
ふふ、クマゴロー。
心のなかでは、おぬしを我がクレーンゲームの師と呼んでやろうではないか。
いつか、我が師を超えてやる。
それは遠くない未来に違いない。
そして、我が師の髭をモフモフの手触りにしてやろう。
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