腹黒ドエス王子と別れたい 今から婚約破棄するんですね?大歓迎です

仲仁へび(旧:離久)

第1話



 国の中心部。


 王宮で開かれたパーティーの中、私はわくわくしながらその時を待った。


 目の前にいるのは、私の婚約者である王子だ。


「俺は、君との婚約を」


 その婚約者は顔をまっすぐ私を見て、言葉を紡いでいく。


 きっと婚約破棄だ。婚約破棄してくれるのだ。


 思えばここまでくるのに長かった。


 乙女ゲーム世界の主人公、(しかも貴族)に転生した私は、親と家の都合で攻略対象の一人である腹黒ドエス王子と婚約してしまった。

 待っていたのは、性格の悪い彼にちくちく嫌味を言われる日常。

 そんな日々に辟易した私は、彼に婚約破棄してもらうために、色々頑張ってきたのだ。


 その努力が、今日実る。


 さぁ、早く続きを。


 今から婚約破棄するんですね? 大歓迎です。さぁ、さっさとやってください。


「この婚約を維持させてもらう。君がなんと思おうとも、ね」

「えっ?」


 あれ? どうして?







 ここに至るまで私は様々な事をやってきた。


 彼の靴に芋虫を入れておいたり、彼の背中に「私は馬鹿です。貼り紙されていることにも気づきません」と書いた紙を貼り付けたり、彼の持ってきたお菓子を勝手に食べたり、彼のカバンにごみを入れておいたりしてたのに。


 そのたびに彼が「芋虫が可愛そうですよ。あ、これ珍味の虫の佃煮ですけど食べますか?」とか、「紙を無駄にしないでください。執事に怒ってもらいましょうか」とか「おやつ抜きにしてもらうようにご両親にいっておきますね」とか「じゃあ貴方のカバンにもとっておきのゲジゲジ虫を詰めておきましょ「いやぁぁぁそれだけはやめて」」とかドエス顔で言ってきていたのに。


 嫌がられる事ばっかりして、彼のためになる事なんて何一つしてこなかったのに。


 しかもさっきは、彼の幼なじみである悪役令嬢に「私の婚約者に近づかないでっ。でもどうしても用事があったら、私の見てない所で会話しててちょうだい」と醜い嫌がらせもしたのに。


 何で婚約破棄してくれないの!?


 だって貴方、他のご令嬢達から、「あんな女とはさっさと婚約破棄しましょうよ」「その代わりに私と婚約を」って言われてたでしょう?


 なのにどうしてよ。


 おさまりきらないこの苛立ちをぶつけるように地団太を踏んでみた。







 僕の婚約者がまたおかしな事をしている。


 おおかた婚約破棄されなかった事に、イラついているのだろう。


 彼女が僕の事を嫌っているのは分かっていたけれど、僕はそうでもない。


 ずっと婚約者にいてほしいと思っている。


 たまにちょっと「私の婚約者のくせにそんな事もでいないんですのねやーい」「私より背が小さいんですから、貴方ってぜんぜん男らしくないですわね。おチビさんですわ」いやかなりむかつくけど、それでも大事な人である事は変わりない。


 僕は王子であるから、いつも周りには人がいる。


 退屈した事なんてないけれど、でもそれが疲れてしまう時もあるんだ。


 王子にふさわしい顔をして、王子にふさわしい言動で、人と接していなければならない。


 それはとても辛い事だった。


 けれど、婚約者である彼女と一緒にいる時は、無理をしなくてもいい。


 意地っ張りでイジワルで、性格悪くて、小さな事を気にしてしまう、ありのままの自分でいられるから、気持ちが楽なのだ。


 彼女は僕の事、性格悪いといつも言うけれど、そうなってしまうのは彼女のせいなんだけどな。


 僕だって本当は君に優しくしたいのに。


 まあ、そういうわけだから、これからも彼女の婚約者でいようと思う。


 この先何があっても、君の隣に立つ資格を、手放すつもりはない。


「(ぶるっ)なんだか寒気がしますわ。何か嫌な事考えてません?」

「何でもないよ、そういう事言ってると何かやましい事でもあるのかと勘繰りたくなるな」

「そんな事ありませんわよ! 貴方って本当に性格が悪いですわね!」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

腹黒ドエス王子と別れたい 今から婚約破棄するんですね?大歓迎です 仲仁へび(旧:離久) @howaito3032

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ