土と華①
「圭、取材の話しがあるんだが、受けないか?」
工理大学 理学部 数学科の研究室。
大木教授は黙々とPCに向かって作業をしている助手の背中に、努めてさりげなく落ち着いたトーンで話しかけた。
この子には、感情を抑えた淡々とした口調の方が理解してもらいやすい。
学生時代から自分の後を追いかけて研究室の助手に就職までした教え子への対応方法を、大木教授は知り尽くしている。
「取材、ですか?」
忙しく動かしていたキーボード上の指の動きを止め、白く無表情な顔が大木教授のほうに向いた。
もう何カ月もカットをしていないであろう、無造作に耳の下まで伸びたショートカット。
眼鏡の奥にある、何事にも動じない澄んだ静かな瞳。
手入れは行き届いていないが、人形のように整った顔立ちをしている。
研究室の助手である園田圭は、旧知の間柄である教授からの一言を冷静に紐解いていく。
教授は相変わらず言葉が足りない人だ。
「研究室の取材ですか?それとも私単独の取材ですか?どちらにしても、テーマは何ですか?」
「圭単独で、だよ。学生向けのメディアで若き研究者について取り上げるらしい。どうだ?」
「ああ、進路決定の資料としてということですね。いつですか?」
「それが、明日なんだよね。すっかり忘れていた。」
なんだ、決定事項なのか。それなら私に意思を聞く必要はないだろうに。
最近研究に行き詰っていたから、気分転換になるかもしれないな。顔バレしてやましいこともないし。
「分かりました。後ほど時間を教えてください。もし事前資料などがありましたら、それも一緒に。」
「受けてくれると思ったよ。ありがとう、圭。過酷な研究にめげず夢を追いかける理系の研究者を増やすため、この大学の広報のため、この取材には様々なメリットがあってだね ―」
嬉しそうに語り始めた大木教授に背中を向けて、圭は思考途中だった作業に戻った。
明日は身なりを整えて来よう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます