第54話 判明!写真の謎!

「ここだよぉ。目的地に到着ぅ~♪」


 年頃の男の子ならふにゃふにゃになるであろう、ルーフェルメの甘い声。

 シルスが連れられてきたのは様々な遊具が揃う娯楽施設アミューズメント

 シルスの時代にはレトロモデルと呼ばれているような手動のゲーム機が店の主力機として目立つ所に配置されている。


 それらには目もくれず、アルシーアは目当ての機種にまっすぐ進む。


「コレコレ!ラッキーだなー、誰もいないじゃん!見たコトあるか?シルス!」


 アルシーアが振り向きシルスに問う。

 

動写真投影機ムービングフォトメーカー……その名もズバリ!『動くんです!』だ!」


 最新の魔導技術を駆使して作られた写真機フォトメーカーである『動くんです!』。


 シルスが元にいた時代では衰退こそ免れてはいるが新機種が続々と開発され『動くんです!』は人気機種では無くなっている。

 が、この時代では行列ができるほどの人気機種であるようだ。

 

「へ……へー。スゴーイ」


 ――古っ!!でか!!わたしの時代だともっとコンパクトなのに……んっ!?

 ということは……っ!

 やっぱり、過去に来ちゃった、のかなっ?


「なんだよ、リアクション悪いなあ」


「今日は空いてる方だね。けっこう、いろんな所に出回ってきてるからかな?」


「そろそろ閉店時間だからじゃないかなぁ?」

「じゃあ、さっさと撮っちまおうぜ!」


「ねえ、シアシア。忘れてないよねぇ?罰ゲームぅ♡」

「わーかってるよっ。うっさいなあ、もう」


「うっさくはないと思うけどなっ♪」

「うっさいの!」


 ルーフェリカとルーフェルメが楽しそうに言うのをアルシーアが不機嫌に突っぱね、化粧室ドレッシングルームへと向かった。


「ルメちゃんも見るの久々ー!楽しみぃ!」

「シルスちゃんも、よーく見ててね!」


「罰ゲームって何です?」


 三人のやり取りが飲み込めないシルスが問う。


「ルメちゃん達でゲームしてたのね。今日の最終公演で誰が一番声援もらえるか、って賭けてたのぉ」


「で、シアシアが負けたら、すっぴん写真。アタシらが負けたらルメと髪型チェンジ。そんでー、一番の歓声は誰だったと思う?」


「えー?誰ですか?」

「あてずっぽで言ってみてよ!」


「え、じゃあ……アルシーアさん?」

「その答えでいいの?」


「え……ハイ」


 ――この流れは……


「その答えでいいのね?」

「はい!アルシーアさんで!」


 腕組みをし、シルスをじっと見つめるルーフェリカ。

 

 ゴゴゴゴゴ……


 またもどこからか聞こえてきそうな効果音。


「んんんー……不正解!どーん!」


 タメを作って大袈裟に指を差すルーフェリカ。


「あの……間が長いデスよ……」


「あっははー!いーじゃん、面白いでしょ!一番の大歓声はねー、シルスちゃんだったよ!」


「えっ!?わたしですか!?」

 

「「そう!だから、みんなで罰ゲームぅ♪」」


 ルーフェリカとルーフェルメの声が見事にハモる。双子ならではのハモりは、二人の声の美しさも相まって耳に心地よく響く。


「シアってー、ホントはツヤサラの金髪なんだよ」

「キンパツですかー。舞台の時だけ染めてるんですか?」

 

「そう。マジックレッドパウダー、って魔法のかかった髪染めで一時的に真っ赤にしてるのよ」

「一時的……シャワーで落ちないんですか?」


「マジックホワイトパウダーっていうので落とすんだよぉ。シアシアの赤い髪はトレードマークだからねぇ。金髪に戻しちゃうと誰だかわかんなくなっちゃうでしょう?

 だから打ち上げ終わるまでは赤のままだったのぉ。目もねぇ、ホントはちょいタレ目なんだよぉ」


「へえー、自然のつり目じゃないんだ……」

 

「舞台に上がるのにハクがつかない!ってさー、ええかっこしいなんだよね!」

 

「こめかみの髪をぐっと後ろに引っ張ってぇ、後はツリメイクっていってキツメのアイライン引くのよぉ」

「ふんふん」

 

「メイク落として、腰まであるツヤサラ金髪整えたら、うわ、どこのお嬢様!?ってカンジになるんだよ!」


「えー?シアさんがお嬢様っ?でもガサツでおおざっぱな性格までは治んないですよね?」

 

「誰がガサツで大雑把だって?」

 

 罰ゲームのすっぴん写真のためにメイクを落としたアルシーアが、シルスの背後からグーでこめかみグリグリの刑を課す。


「いたたたたっ!イタイです!シアさんっ」


「やっぱりツヤサラ金髪のがいーじゃん!」

 

「こっちの方がモテるよねえ。シルスちゃんは、どう思う?」


「見てみないと、わかんな……い!?」


 こめかみグリグリの刑から解放されて、シルスが振り向き目にしたアルシーアのその姿は。


「えっ!?ファルナルークさん!?」


 ぱっちりとした瞳は夏空の青。

 ツリメイクを落とすと目元が格段に優しくなる。

 まばたきをする度に長い睫毛が金色の前髪を揺らすその様は、ファルナルークと全く同じと言っていい。


「……シアさん!?……が……ファルナルークさん……って……ええー!?」


 今、シルスの前にいるのは間違いなくアルシーアである。

 が、見た目はファルナルークに瓜二つ。

 もしもファルナルーク本人が横に並べば、誰もが『双子』と思うであろうほどに外見は酷似している。


「うわー……ホントにそっくり……」


 ――似てる!……ホントに似てる……ファルナルークさんがロングだったら、きっとこんなカンジだったんだろうなー……はっ!ちがうっ!わたしのキモチはそんな綿虫みたいにふわふわしてないハズ!

 わたしはもっと一途にファルナルークさんを想ってる!

 ファルナルークさんは、ガサツじゃない!

 ファルナルークさんは、大雑把じゃない!

 ファルナルークさんは、荒っぽくない!

 ファルナルークさんは、キレイで尊い!

 わたしはファルナルークさんに会うために!

 時間だって超えたんだから!


「わたしには!ファルナルークさんて想い人がいるんです!だから!ごめんなさい!」


「……は?え、なに?今、あたしフラれたの?」


「あっははー!シアシア残念!告白してもないのにフラれるなんてさー!」


 突然フラれたアルシーアをからかうようにルーフェリカが笑い飛ばす。


「なんっでオマエは嬉しそうなんだよっ」


 ――でも……やっぱり似てるなー……


「あん!?なんだよジロジロ見んなっ。そのカワイイ目玉ほじくるぞっ」


 目をぱちくりしながらも、じーっと見つめるシルスに毒づくアルシーア。

 

「シアさん……クチ悪いですよね……あのっ、シアさんて何歳いくつなんですか?」


「15だよ。二つしか違わないじゃん」


「えーっ!?18くらいかと思ってた……」

「なにー?フケて見えるってかぁ?」


「違いますよう、オトナっぽく見えるんですよぅ」


「シアシアの唯一の取り柄だよねえ」


「見た目年齢が上に見られるのが取り柄ってか?なんだよそれー」


「照れてるんだよねー。カワイイとこあるよねシアシア♡」


「うっさいなあ、もう!バーカバーカ!うんこったれー!オンナだからお上品に喋んなきゃダメなんて言うなよっ!」


「ファルナルークさんの顔でそんな言葉使わないで下さいよ~……シアさんの口の悪さは人としてダメな気がします……」

 

「おー!動く動く!スゲーな、これ」


 アルシーアが現像されて出てきた動写真ムービングフォトを見て感嘆の声を上げる。


 マイペースなヤツである。


「ほれ、シルスも見てみ!軽く触ってみな!動くから!」


 不機嫌な風はどこへやら。


 アルシーアが突きつけるようにしてシルスの目前に動写真ムービングフォトをかざす。

 

 シルスが写真の表面に軽く手を触れると……

 写真に写るアルシーアは、初めそっぽを向いて不機嫌な顔を見せていたが、誰かに呼ばれたかのようにカメラ目線になり、にこっと微笑んだ。


 腰まであるツヤサラの金髪が照明光を受けて輝く。

 ノースリーブから伸びる色白の長い腕がやや筋肉質なのは踊りで鍛えているからだろう。

 スラリとして引き締まった長い脚にショートパンツは反則に近い。


 3秒程度の動写真ムービングフォト

 

「こっち向いて笑ってー、って言うんだもんなー。条件反射で笑っちゃったよ」


「これ……これって……!」

「なー!?スゲーだろ!?」


 アルシーアは至極ご満悦のようだ。


 これは、まさに。

 

 シルスが自宅の離れ二階で見つけた写真そのものだった。


 ――落ち着いてっ!落ち着こう!わたしっ!この写真って……ファルナルークさんが触ったら燃えちゃって!失くなっちゃって……なのになんで……え、今って……


「あにょっ!ルーフェリカしゃん!今って、今日って、巡星歴何年何月何日れすかっ!?」


「ん?どしたの急に?609年8月29日だよ?」


「ろっぴゃくきゅうねん……!?」


 今の今までばたばたと振り回され、確認も出来なかったが、これでようやくはっきりした。


 ――間違いない……わたし……もっと過去に飛んじゃったんだ!


 アルシーアがにこっと微笑む動写真ムービングフォト

 シルスが自宅の離れの二階で見つけた、この旅に出るきっかけとなった写真。


 ただ、その写真を見つけるのは。

 

 今から82年後の未来の事である。

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