第27話 街に着いたはいいけれど
「街に着いたはいいけど、メレディスって魔女が何処にいるか分からないんだよね?」
シュレスの問いにシルスは若干、表情を曇らせた。
「居場所までは……」
最悪の場合この街に居ない、という可能性もある。あくまでも最悪の場合であって、メレディスは高い確率でこの街にいる。
閉じ籠りがちで外出は好きではなかった、とシェラーラが言っていた。
――ファルナルークさんの呪いを解く、って言っちゃったし……でもそれはホントにそう思う!うん!あと、帰る方法聞かなきゃ……計算だと『
あれ……さすがにのんびりし過ぎかも……それにまだみんなに、帰る日の事、言ってない……
普段は楽天的なシルスだが、事が事だけに真剣にならなければ元の時代に帰れなくなってしまう。
「……ちょっとだけ焦ろう。うん、ちょっとだけ!」
「今夜泊まるとこ探さないと。花火大会あるから空いてるとこあるかビミョーかもね」
花火大会は夏休みの最終週に開催されるという事もあり、人波が徐々に増えつつあった。
シルスの旅の目的の一つに『アールズの大花火を皆で見る』という願いがある。
「花火大会……わたしも見たいです!」
「一緒に見ればいーじゃん、シルったん。その為にここまで来たんじゃないの?」
「……そう……ですね。見れるといいんですけどね……」
「……なんか歯切れ悪いねえ」
『
移動時間や『時渡』の術式準備などを考えると、呑気に花火を見ている時間はないかも知れない。
時渡の術式を見られて困るものでは無いが、未来から来たという事は知られてはいけない。
シルスが口ごもるのはそんな理由からなのだが、ルディフにはハッキリしないシルスが疑問に思えるのだった。
「花火大会あるからかなー、かわいコちゃんいっぱい!目移りしちゃうよねー!」
「どーせ相手にされないからやめておいた方がいーですよ、ファイスさん!」
「なかなか言うねーシルス!じゃあ、晩メシ賭けよっか!」
「いーですよファイスさん!わたしは、『全員にガン無視される』にベットです!」
「がんむし?」
「誰にも相手にされないってことですよ!」
「にゃにおう!やったろーじゃん!」
「でも今回は見逃してあげます!わたしはメレディスさんを探さないといけないので!」
「じゃあ、勝負はまた今度だな」
「え?なんでですか?」
「オレもメレディス探しに付き合うよ!どんな魔女か気になるし!」
「ファイスさん……ありがとうございます!メレディスさん見つけられたら、お菓子あげますね!」
「お菓子って。コドモ扱いだなー」
二人の会話を片耳で聞き流しつつ、ファルナルークは街の数ヶ所にある掲示板に注目していた。
『エルフ情報求む。情報料支払い有り。信憑性の高い情報には高額支払い』
「ここにょ掲示板にもある……」
ファルナルークが気付いたのは掲示板だけではなかった。
『エルフお断り。お連れ様含む』
こう書かれた貼り紙が、いくつかの宿屋の軒先に注意書きとして貼り出されていた。良質そうな宿泊所は大抵、エルフお断り、となっている。
少し裏路地に入った安い宿屋。ただ寝るだけのような小さな宿屋だったが、ここにはエルフお断りの貼り紙は無い。
「5人だけど、二人部屋を2つ。無ければ4人部屋一つある?」
「あるにはあるけど……なあ、なんであんたらエルフと一緒にいるんだい?」
「エルフ、つっても、ハーフエルフだよ?」
「似たようなモンだろ?ウチはかまわないけどさ、お客だし。よそで断られなかったかい?」
「3軒断られたな。空室あるのに満室だ、って。あと、エルフお断りって貼り紙、あれなに?」
「兄ちゃん、悪く思わねえでほしいんだが……エルフとつるんでっと危ない目に遭うかもしんねーぞ」
宿屋の主人らしき男が、シルスに気を使ってか、小声でファイスに耳打ちをする。
「へえ……なんで?」
「あんたら旅の者だったら知らないのも無理ないか……この街で起きてるエルフ失踪事件て聞いた事ないかい?」
「イヤ、知らない。誘拐、じゃないのか」
「誘拐なら身代金目的とか、何かしら犯人からの要求みたいなもんがあるだろ?それがないんだよ。出所のわからんようなエルフばっかり狙われてるようだな。そんなの、いなくなっても誰も探さなんわな」
「ふーん……」
「今は白姫様と騎士団長様の婚約するかどうかって話と花火大会で華やいでるけどな、未解決のエルフ連続失踪事件なんてキナ臭いモンがあるとなあ、そんなの関わりたくないだろ?」
「ふーん……そうか……」
チラリとシルスを見るファイス。
「2人部屋、2つな。兄ちゃん」
「ありがとう、おやっさん。助かるよ!」
ファイスと宿屋の主人とのやりとりを、ルディフは静かに聞いていた。
ルディフのマジクススキルは『察知』
他人の殺気や敵対心などの感情を読み取れる情報系スキルである。
スキルを使わなくとも、ルディフは、何人かのシルスへの奇妙な視線に気付いていた。
ただハーフエルフが珍しいだけ、そのような視線ではなく、不審者を見るような、哀れむような目でシルスを見る者が多い、と。
もう一つ、ルディフには気になる事があった。シルスの言動がどうもおかしい。
シルスが知るマジクスの機密情報を怪しく思うルディフ。
マジクスの赤斑点の事、ラスティとヴァンデローグの婚約話。街道沿いに点在する休憩所の掲示板やかわら版に載らないような事を、何故シルスが知っているのか?
――……気にし過ぎかな……?
『察知』スキルを持つ自分だからこそ感じる違和感なのかも知れない、と、内心シルスに不信感を抱きつつあった。
ルディフは微妙に雲行きが怪しくなってきたことに危機感を感じていた。今まではおもしろおかしい気ままな旅でそれなりに楽しめたのだが。
「なあ、ファルっち。ちょっといいかな?」
ファルナルークを皆から見えない柱の影に呼び、小声で話す。
「にゃんだ」
「唐突だけどさ、そのおかしな呪いが解けた後ってどうすんの?」
「どう、とは?」
「シルったんをこの街まで連れてくる事、ファルっちにかかった呪いを解く事がこの旅の目的じゃん?」
「ああ」
「はっきり言うよ。その呪いが解けたら、俺と一緒に来ないか?」
「……え?」
「シルったんとはここでお別れの予定じゃん?ファイスっちとシュレスっち、二人ともいいヤツだよ。
でも、いいヤツすぎてバカになる。
いい意味でも、悪い意味でもね。一緒につるんで旅を続けるのも悪くないけど、いつまでもって訳にはいかないだろ?」
「………」
ファルナルークは無言で考えるフリをした。
「ま、考えといてよ」
ルディフは、あまり期待は出来ないかな、と思ったがアプローチはしておいた。
答えを焦る必要はない。
「さて、シルったん!魔女さんに会いに行こうか!」
「なんでルディフがはりきってんの?」
「まあまあファイスっち!荷物預けてさ!出会いを求めに行こうか!」
「……魔女に会いに行くんだろ?」
5人は簡単な荷物を預けて宿を出た。
メレディスを探しに。
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