シルスの愉快な時間旅行 ~ハーフエルフの女の子が夏休みにタイムリープして若かりし頃の人間のおばあちゃんと旅するお話 ~
雪の谷
行ってきます!過去へ!!
第1話 ある日見つけた写真には
きっかけは、シルスが自宅の離れの二階にあった机の引き出しで見つけた一枚の
見つけた写真は古ぼけてはいるが、マジックコートのおかげで色あせや破れなどは無い。
写真に写る見たことの無い若い女性。
自信に満ち溢れた瞳は夏空の青色。
腰に届くほどに艶やかで長い金髪。
色白だが軟弱そうには見えないのは、ノースリーブから見える二の腕がやや筋肉質だからだろう。
健康的な太モモがあらわなホットパンツにすらりと長い足は反則だよ、とシルスは思う。
写真の裏には、
『ファルナルーク』
と、さらさらと殴り書きで書いてある。
「この人の名前かな……?ファルナルーク……おばあちゃんの名前だよね……」
写真の表面に軽く触れると、中の人物が動き出した。
始め、そっぽを向いていたが何か促されたのか、ポーズをとってにこっと笑った。
目と目が合った、その瞬間。
きゅうっ!、と胸が締め付けられ、切ないような、わくわくするような、熱い想いがわき上がってきた。
――なにこれ!?ドキドキする!
――顔が熱くなってきた!
――うわ!ドキドキする!
一目惚れ、というやつだ。
「素敵な人だなあ……会ってみたいな……会えない……よね」
音声の無い三秒ほどの動く写真だったが、写真の中の女性は、シルスの心を捕らえるに十分な笑顔を見せた。
何度再生しても見飽きる事が無い。
ドキドキが治まらない!
生まれて初めての感情にシルスの胸はますます高鳴る。
もう一点、写真と共に見つけた本。
『彗星が私達に幸福をもたらす』
胡散臭いタイトルだとは思ったが、この本の内容がシルスの冒険心を大きく揺り動かした。
「
「特別な血……」
「エルフの……特別な力……」
「彗星の魔力……」
「時を超える力……?時を超える!?」
――これ……わたしなら……もしかして!!もしかするかも!!
所々難解な内容の箇所があったが、『時を超える』という思わぬ力ある単語にのめり込むようにして本を読み進めてみる。
そして、その内容はシルスの心を大きく揺り動かすに充分だった。
写真を胸のポケットにしまい、本を抱えて離れを後にパタパタと駆け足で母の元へと急ぐ。
「かーさん、かーさん!」
「はぁい、なになに、シルスちゃん?」
「この写真の人!わたしのおばあちゃんだよね?」
「ん?ファルナルーク……私のお母さんだよ?」
「イヤ、だから、わたしのおばあちゃんでしょ?」
「あ、そうともいうかも」
「この写真、もらってもいいかな!?大事にするから!」
「いいわよぉ。大事にしてね」
「うん!」
この瞬間、写真はシルスの宝物になった。
「でね、かーさん!わたしっ!夏休みにちょっと旅したいんだけどっ!」
「え?どこに?」
「過去に!」
「え?どうやって?」
「シェラーラに頼んでみる!」
「あ、ララちゃんね。うん、いいわよお。まず、相談に行かないとね」
「今から行って来まーす!」
「気をつけてねー。夕方には帰って来なさいね」
「おけ!」
軽いノリの母娘なのは、周知の事実である。
シェラーラの家に向かって駆けてゆくシルス。
風になびく翠がかったふわふわの金髪は大人になったらツヤツヤのサラサラになる予定。
だからクセっ毛の今はショートカットにしているんだよ!と笑顔で言う。
笑うと右頬にだけできるえくぼがチャームポイントの一つである。
ハネた前髪は友達にアホ毛呼ばわりされるが、シルスはこの前髪を気に入っている。
跳ねるようにして走れるのは小柄で身軽だから、というだけではなく持って生まれた運動神経の良さも相まっているからだ。
濃い翠色の瞳はこれから始まるワクワク大冒険への期待に満ち溢れ、きらきらと輝いていた。
「ファルナルーク……ファルナルークさん!いい響きの名前だなっ!」
ファルナルークはシルスの祖母である。
シルスが生まれる前に亡くなっているので、当然の事ながら祖母の記憶はない。
会いたい。
会って話してみたい。
普通の人間ならば、絶対に不可能な願いである。ただの思いつきで過去に行けるはずがない。
しかし、シルスには『わたしならいけるかも』という幾つかの根拠が本に記されていた。
特別な血
人を超える生命力
彗星の魔力
シルスは、精霊に近しい存在であるエルフの血を引いている。
父はエルフ。母は人間。
いわゆるハーフエルフである。
加えて、シルスの祖父母は共にマジクスの力を持っていた。
『マジクス』
数十年前、島を危機的状況から守り、救った英雄達。
多くは謎に包まれたままになっているが、島の歴史に残る戦士達の総称である。
強大な魔力核の影響を受け特殊な能力を持って生まれた彼らは、この島の古語である魔法戦士という意味の『マジクス』と名付けられた。
今ではマジクスの能力を持つ者は皆無であるが、その血は今も脈々と受け継がれている。
シルスは、そんなマジクスの血を受け継ぐ者の一人である。
そしてもう一つ。写真と共に見つけた本。
『彗星の魔力が私達に幸福をもたらす』
著者はメレディス。魔女である。
隅々まで読み込んだ訳では無いが、彗星の魔力と時間の関係について書かれているようなのだ。
彗星の魔力を利用すれば時間旅行も可能である、と。
シルス自身の中に流れる特別な血。
41年に一度の彗星。
魔女の残した本に書かれている時間旅行についての論文。
この三つが、シルスの冒険心と探求心を大いにくすぐり、駆り立てた。
「時間旅行……これ、夏休みの自由研究にしようかな……信じてもらえないかなー……シェラーラなら聞いてくれるよね、うん!」
母、メルリラに祖母の事、つまりはメルリラの母、ファルナルークの事を聞いても、小さい頃に亡くなったからあまり覚えていない、と言う。
自分が生まれる前に亡くなっている祖母の若かりし頃の写真を胸に、シルスの好奇心が夏の入道雲のようにむくむくと大きくなってゆく。
「楽しみだなっ!楽しみでしかないっ!!」
13歳の夏休みの時間旅行計画が今、動き出した。
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