第19話

「なんでちゃんと悪役令嬢をやらないのよ!」


どうしてこうなったの?


ここは人気の少ない階段の踊り場。

私の目の前には会いたくない人ナンバーワンのヒロインことバルバラが立っていた。

別に待ち合わせなどしていない。バルバラに待ち伏せされていたのだ。

急に出てきたから吃驚したわ。


「ちょっと聞いてるの!」


怒鳴りつけてくる声にビクッと身体が震える。バルバラの顔を見ると鬼の形相をしており、血走った目で私を睨み付けていた。

これがヒロインってないわ。キャラクターデザインさんが見たら涙目になるわよ。


「バルバラさん、何の話でしょうか?」


悪役令嬢の事はちゃんと理解しているが彼女に付き合ってあげる必要はない。

すっとぼけさせてもらう事にしよう。

幸いにも高位貴族に生まれたせいで表情を作るのは得意なのだ。


「何の話ってあんたは悪役令嬢なの!ちゃんと悪役をやってくれないと困るのよ!」

「悪役、令嬢…?それは何でしょうか?」


首を傾げ、訳が分からないといったポーズを取ればバルバラは怒りに顔を赤く染めた。

選択肢間違えちゃったかしら。

乙女ゲームだと間違えた事なかったのに。


「ふざけないでよ!あんたも転生者なんでしょ!」


も、って事はやっぱりヒロインは転生者なのね。分かっていたけど本人の口から聞くと変な感じがする。


「転生、ですか…?言っている意味がよく分かりません」


転生者同士仲良くなれる感じだったらバラしても良かったけどね。この子の行動からすると私に向けているのは敵意だけ。転生者だと知られるのは良くない気がするのだ。


「ふざけないでよ!あんたのせいでルードルフ様を攻略出来ないのよ!」


ルードルフ狙いだったのね。

まあ一番人気のキャラだったし、彼女が狙いたくなる気持ちも分かる気がする。

ただゲームの彼と現実の彼では全然違う。

私が悪役として動いていたとしても彼女に惚れるかと言われたら微妙なところだ。

少なくともその性格の悪さをどうにかしないと彼とは結ばれないと思う。


「言っている意味がよく分かりません」


だからさっさと解放してもらいたいのだけど。

怒りで身体を震わせるバルバラは急に顔を上げたかと思うと私を指差して不穏な事を言う。


「あんたが居なくなれば良いのよ!消してやるから覚悟しておきなさい!」


ぽかんとする私を置いてバルバラは立ち去って行った。

てっきり階段から突き落とすか突き落とされたふりをするのかと思ったのだけど…。


「何だったのよ…」


小さな声を響かせた。

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