第15話

学園に入学してから約一ヶ月、私の周りでは何も起こらなかった。

私の周りでは起こっていないだけだ。

廊下を歩けば他クラスから聞こえてくる女生徒の泣き声に胸が痛くなる。


学園に入学してから一ヶ月で大きく変わった事。

それは多くの貴族男性が婚約者を蔑ろにし始めた事だった。

原因は分かりきっているゲーム内でヒロインと呼ばれていた少女バルバラのせいだ。

ルードルフに蔑ろにされたせいなのかは知らないがバルバラは鬱憤を晴らすかのように他の貴族男性に手を出し始めたらしい。

どうやって口説き落としてるのかはさっぱり分からないが男性貴族にとって彼女はお姫様、女性貴族に阿婆擦れ。

彼女が所属しているクラスの男女には大きな亀裂が入っているそうだ。

ただ婚約破棄をした貴族は今のところないようだ。しかし関係に亀裂が生じている限りそれも時間の問題だろう。


「そろそろ私のクラスにも被害者出るのかしらね」


ぼんやりと考えていると物凄い勢いでこちらにやってくる赤髪の男がいた。

アロイス・フォン・シュレンク。

ゲーム内における攻略者の一人で騎士団長子息のポジションにいた人物。

彼はルードルフと親しい人間であり、私自身も何度かお茶会で会った事がある為よく知っている。


「おい!クラウディア!」


怒鳴り声で名前を呼ばれて驚く。

彼は少々頭の悪い部分があるがそれでも騎士として礼儀正しかったはず。

それがどうしたと言うのだろうか。


「お前、バルバラを苛めたな!」


理由聞かなくても分かりましたね。

そういえばアロイスはヒロインと同じクラスだった。しかしどうして私が怒鳴れているのだろうか。

アロイスルートにおける悪役令嬢は私じゃなく彼の婚約者であるエーディトだ。


「苛めてません」


とりあえず今は彼の言葉を否定しないと面倒だ。


「嘘だ!」

「アロイス、私が彼女を苛める理由は何?」

「そ、それは…苛めたかったからだろう」


こいつ馬鹿だ。

大方ヒロインから私に苛められていると言われて碌な確認も取らずに正義感だけでやってきたのだろう。

阿呆か。

そもそも入学式以来ヒロインとは出会っていない。

向こうはDクラス。私はAクラスだ。

教室の階数も違えば授業終了時間も違う。

会えるとしたらお昼休みか放課後。しかしお昼休みは基本的にルードルフと一緒に食事を摂っている為、バラバラが近寄ってくる事はない。放課後はルードルフによって王城に連行されて妃教育だ。


「苛めたかったから苛めた?ふざけているの?」

「なっ…」

「私がバルバラさんと会ったのは入学式の時だけ。以降は会えていないわ。そもそも会える時間がない事くらい貴方だって知っているでしょ」


捲し立てるように言ってやればアロイスは一歩後ろに下がった。彼の後ろから近づいてくる人物に私は凍り付いた。


「何をしているのですか、アロイス」


氷のように冷やな声を響かせたのはルードルフだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る