第14話
結局ルードルフが私を下ろしてくれる事はなかった。
お姫様抱っこのまま会場に入った私達は当然注目の的。貴族令嬢達には妬ましそうに見られたし、平民達には黄色い声をあげられた。
しかし私の悲劇はこれで終わりではなかった。
私の席に座らせた後、さっさと自分の席に戻ってしまうルードルフに安心しきっていた私は入学式が早く終われば良いと呑気な事を考えていたのだ。
ルードルフの挨拶している姿は正直格好良かった。チラチラとこちらを確認して来なければの話だけど。
入学式が無事に終わり、膝の事をすっかり忘れていた私はルードルフが来る前に逃げようと普通に立ち上がると激痛に見舞われ蹲った。
「ディア、大丈夫ですか!」
一番初めに駆け寄ってきたのは婚約者ルードルフだった。
私の側に座り込み、顔を覗き込まれる。
今は涙目になってるから見ないで欲しいのだけど。
「無理しないでください」
そう言われ再びお姫様抱っこをされてしまう。周りから悲鳴にも似たような歓声があがったのを聞いて頭が痛くなった。
「下ろしてください」
「駄目です。痛いのを我慢しないでください」
確かに痛いけど。立つと激痛が走るくらいだけど。
大衆前でのお姫様抱っこはやめて欲しかった。
羞恥心に見舞われた私はルードルフの肩口に顔を埋め周囲の視線など見ないようにする。
「しっかり掴まっててくださいね」
嬉々として話すルードルフが少しでも苦しめば良いと首に巻き付けた腕の力を強めた。
周囲を見ていなかったせいで会場から出ていく私達を憎たらしそうに睨み付ける人物に気が付かなかったのだ。
「そうだ。私の挨拶どうだった?」
「……格好良かったですよ」
二人きりになり尋ねられたので顔を上げて答えを返す。悔しいけど挨拶をしている際のルードルフは格好良かったのだ。
思わず見惚れてしまうくらい。
「嬉しいよ」
「ちょっと、やめてください…」
頰にキスをされるが体勢のせいで逃げる事が出来なかった。じんわりと熱くなる頰を見られたくなくて再び彼の肩に頭を寄せる。
「私達は婚約者なのだから照れる必要ないのに」
「嵌めたくせに…」
「まだ引き摺ってるの?」
「死ぬまで言い続けますわ」
貴方の婚約者になった事で、いつ死ぬか分かったものじゃないですけどね。
「じゃあ、何十年も言われ続ける事になるね」
こちらの気持ちなど知らないルードルフは笑いながらそう返してきたのだ。
「そうなれば良いですね…」
彼の言葉に泣きそうな気分になったのはどうしてだったのだろうか。
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