第11話
ルードルフから本を贈られた日の夜、寝る間も惜しんで貰った本を読み進めた。
城の内部構造についてやたらと詳しく書かれており、どこかのお城がモチーフになっているのでは?と疑問になった。後にその疑問を解決してくれたのはルードルフだった。
本を貰った一週間後、彼にお礼の手紙を送ると返事はすぐにやって来た。
『大切な話がありますのですぐにそちらに行きます』
そんな短めの文章だった。
「おはようございます、ディア」
「ルード様、おはようございます」
ルードルフは手紙通り、すぐにやって来てくれたのだ。
大きな薔薇の花束を持って、嬉しそうに笑って。
「ルード様?どうされたのですか?」
首を傾げる私にルードルフは跪いた。
その行動の意味が分からず焦せる。
笑顔のルードルフはあっさりと私を地獄に突き落とした。
「ディア。私と婚約をしてください」
薔薇の花束を私に差し出したルードルフは笑って言ったのだ。
頭の中が真っ白になる。
どうして私はルードルフに婚約を申し込まれているのだろう。
まさか強制力とか…?それならあり得る。
「ディアが嫌だと言っても婚約はして貰いますよ」
「あの…」
「詳しい話は中でしましょう」
ルードルフは慣れた足取りで屋敷の中を歩いていく。
目的地はいつもの談話室だろう。
フラフラする体でルードルフの後ろを歩いていると彼に腰を抱かれ擽ったさに変な声が出そうになった。
「フラフラしていたので。大丈夫ですか?」
「は、はい…」
貴方でフラフラしてるのよ。
睨み付けるが彼は気にせず談話室まで私をエスコートしてくれた。
中に入るとヒルマに「大切な話だから出ていて貰えますか?」と部屋を出て行くよう指示を出すルードルフに戸惑う。
「マルコには居て貰います。二人きりではありませんよ」
笑顔で言うルードルフにヒルマは口答えも出来ず頭を下げて出て行った。
扉が完全に閉まったところでルードルフは笑って私を見つめる。
「婚約者になって貰う理由をお話しましょう」
「は、はい…」
聞きたい事をすぐさま話してくれるようで安心する。
納得出来ない理由であればすぐに婚約の話は無かった事にして貰えばいい。
大丈夫。きっと出来るわ。
「確認ですがディアはプレゼントをした本を読みましたね?」
「えっ、はい。読みましたよ?」
「良かったです。内容を見て感じた事は?」
「あの…婚約の話をするのではなかったのですか」
先程から聞いてくる内容は婚約に関係ない話のはず。
首を傾げると楽し気に笑われました。
「関係あるのですよ。それより内容はどうでしたか?」
「……面白かったですよ。ただお城についてだけはやけに詳しく書かれていると感じました」
「そうですか。分かりました」
相変わらず面接官みたいな話し方をする人ですね。
出会って四年経ちますが変わらなさ過ぎて驚きですよ。
「ディアに質問なのですが」
「はい」
「『逆賊のアリーセ』や『王宮の秘密探検』の作者をご存知ですか?」
面接官ルードルフに尋ねられるが答えられそうにない。
過去に作者の事を調べようとしたが全く情報が出てこなかったのだ。年齢はおろか性別すら分からないのはやや奇妙な話であると思ったが、面白い作品に巡り合わせてくれるのは感謝するしかない。
というわけで面接失敗という事にてお祈りをしてください。
「作者は私の姉ですよ」
「え?」
ルードルフの姉という事はこの国の第一王女であり隣国の王妃様だ。
そんな偉い人が小説を書く?
どういう事なの?
訳が分からないと混乱する。
「私の兄が生まれるまで姉は女王になるために厳しく育てられていて。その息抜きとして小説を書いていたのですよ」
この国は基本的に第一王子が国王になるが、王座が生まれなかった場合のみ第一王女に王位継承権が与えられる事になっている。
故に第一王子が生まれるまでの間は第一王女が後継者の役割を担っていた。
それは貴族なら知っている話だ。
しかし厳しく育てられていたからといって息抜きに小説を選ぶとは奇特な王女様ね。
「姉の処女作である『王宮の秘密探検』は姉の実体験が元になっているのですよ」
「えっ…?」
「あの本がどこにも出回っていないのは書かれている内容が全て事実だからです」
もうここまで言えば分かりますよね?
そう聞こえてきそうな笑顔を見せられた。
背中に冷や汗が流れる。
私はとんでもない秘密を知ってしまったのではないだろうか。
「王城の秘密を知ってしまったディアには私の婚約者となってもらいます。この意味、分かりますよね?」
あの話の事は他言無用。
他家の人間と婚姻を交わし勝手に王家の秘密を話されたら困るので監視しますよって事ですよね。
つまりこの婚約は王命と同義だ。
「は、嵌めたのですか?」
「結果的にそう捉えられてもおかしくないですね」
つまり嵌めた事を認めるのね。
どうしてそんな事をするのよ。
「よろしくお願いしますね、婚約者殿」
彼の天使の笑顔が私には悪魔の微笑みに見えた。
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