第8話

「第二王子ルードルフ殿下のご入場です」


侍従の声に会場が騒めく。

主にルードルフを目的に来たであろうご令嬢達は嬉しそうに頬を緩ませる。そして待ち焦がれていたルードルフが姿を見せると幼いながらに全員の目が熱の篭ったものに変わった。

その中で私だけは冷え切った目を向けてた。

流石は攻略対象者。小さい頃からおモテになる事で良いですわね。

それくらいしか感想がなかった。


「王妃様。ルードルフ殿下がいらっしゃるみたいですので私は失礼させて頂きます」

「え…」


王妃様から制止の声が聞こえてくるよりも早く席を立ち去る。

逃げる最中に一瞬ルードルフと目が合った気がしたけどおそらく気のせいだろう。仮に見ていたとしてもそれは王妃様の席から立ち去った貴族令嬢が気になった程度だ。


私は元の席ではなく端っこの方にあった誰も使っていない席に座った。婚約者探しに巻き込まれてしまわないよう出来るだけ王妃様達から離れたところに居たかったのだ。

一息付いたところで王妃様の声が響いた。


「皆様、我が息子のルードルフです。実は本日はこの子の婚約者を決めるために皆様に集まって頂きました。私も陛下も息子の意思を尊重したいと思っております。この子が良い縁で結ばれる事を期待してます」


はっきりと王妃様の口からルードルフの婚約者の話が出た途端に目の色が変わる令嬢達に恐怖を覚える。

幼くても女は女なのね。関わらないでおきましょう。下手に関わって喧嘩を売られたくはないもの。


それにしても息子の意思を尊重とは王妃様も笑わせてくれる。

もしかしたら本気で思っているのかもしれないけど、今それを信じてあげられるほど私の精神年齢は子供ではないのだ。


ルードルフが一歩前に出て挨拶を始める。


「初めまして。私はルードルフ・フォン・ロタリンギアです。本日は皆さんと楽しんで話したいと思っていますので気軽にしてくださいね」


物腰柔らかな王子様。

それが実際に見たルードルフに対する第一印象だ。


ゲームの彼も表向きは品行方正で心優しい王子様だった。

しかし内面は厳しすぎる教育によって心が冷めてしまった冷徹人間。

自分に熱い視線を送ってくる令嬢達が大嫌いなのだ。そして王子でありながら誰に対しても敬語で話すのが特徴的なキャラだった。

ストーリーを進めるとヒロインだけには口調を崩して話していたのだ。


挨拶を終えたルードルフが会場にいるご令嬢達との会話を始めた。

興味がないので帰りたい。しかし帰らせては貰えない。

しばらくはこちらにやって来ないだろう。

離れた席を選んだのは正解だったと目の前に用意されたケーキを頬張った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る