カナフとそらのキャンバス

 目を閉じると、自分の内側になにかが広がっているような感覚を味わうことがある。


 浮遊感と違和感が居心地悪くてその正体を探っていくと、どうやらそれは「そら」らしいということがわかった。


 そりゃ浮遊感もするわけだ。そらというのは実体がなくて曖昧なものだからね。


 ぼくはだんだんそのそらを見る感覚をつかんできて、気が向いたときにその内側のそらを探検するようになった。


 どうもそいつは、実際の時刻というより、ぼくの心を反映しているらしい。ちょっと嫌なことがあった日は曇り空。楽しいことがあった日は快晴。なにかに感動したときは夜空。しんみりしたときは夕焼け。


 探検にも慣れてきた、とある落ち込んだ日のこと。ぼくはぐるぐる考えているのも嫌でそらの中に逃げ込んだ。


 でも広がっているのは気分を写した曇り空で。


「あーあ、太陽があったほうが気分がいいのになあ」


 ぼそりと呟いた、そのとき、雲が割れて太陽が顔を出した。


 ――そうか。ここは、ぼくの心であると同時に、ぼくの思い通りになる白紙のキャンバスのようなものなのか。


 それに気付いてからぼくは、いろんなそらにいろんな装飾をして遊ぶようになった。


 快晴の空に虹を描いてみたり。夜空に流星群を降らせてみたり。夕焼けの色合いを操ってみたり。


 そうこうしているうちにぼくは、内側のそらに呼応して、自分の心をコントロールできるようになっていることに気付く。


 こいつぁいいや。今日もぼくは、自分の内側にある空という名の白紙のキャンバスに彩りを添えていく。

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