第119話 旅立ち

 家を出て東京へと引っ越す日となった。


 俺はすでに卒業式の日、つまり昨日に東京へと送る荷物を宅配業者の人に渡している。俺は今日から晴れて東京住まいというわけだ。

 東京も大宮同様、都会であり、雰囲気とかそういったものの急変は見られないことだろう。田舎から都会に行くと人の多さに酔うなんてことも考えられるらしいが、こと俺に関しては問題なさそうだ。


 俺は朝、目を覚ますと部屋が簡素な状態であるのを見た。今までは本棚や机などがあったのだが、今はもう見る影もない。なんなら、ベッドまでない。俺が寝ていたのは来客用で我が家にある敷布団だ。俺の部屋の押し入れの奥底に眠っていたものを俺が昨日、引っ張り出し今日の寝台としたのだ。


(今日は午後からバイトか········。今日から忙しくなるな)


 津田の親父さんには今日からバイトに入る旨を伝えている。津田の親父さんからは簡単に自身の事務所に所属する人たちに説明をしてくれているらしく、今日からバイトをスタートできるとのことだった。

 俺はバイトを一度も経験したことがないため、どんなものなのか想像てきないが、中学の頃の職場体験と似たようなものだろうと辺りをつけた。実際どうかは今日やってみればわかる。


 俺は敷布団を片し、リュックサックを手にとって下の階へと降りた。


 リビングではりずはがいつものように朝飯の用意をしていた。いつもより力が入っているように見える。


「あ、お兄ちゃん、おはよう!」


「おう、おはよう」


 あいさつをお互いに交わし、俺はリビングにあるソファに腰を降ろした。ソファの目前にある机の上にはいつものように新聞が置かれていて、俺はそれを手に取り、ニュースを確認していく。新聞には特に日下部の過去の一件に関しては書かれていない。それもそのはずだ。もう8年も経っているのだ。8年前の事件などもう多くの人が忘れていることだろう。

 大きなことであろうと小さいことであろうと一時騒がれていたとしても時間が経てば収まっていく。人々の興味から外れていくのだ。


 情報収集自体は欠かしたことはない。だが、俺が調べられることにも限度がある。その範囲内では到底解決などできない。


(新聞をこれまで俺は読んできたわけだが、一度も日下部の過去の一件に関しての記事は見たことがない。俺が小4〜5のときの新聞には載っているのだろうが、さすがに家にはなかったしな········)


 新聞を読むことが習慣となったのは俺が中学生になった頃だ。それから毎日欠かさず読んできたわけだが、日下部の過去の一件に関しての記事は見かけなかった。3年も経っているからだめなのか········?

 家にあるのも精々1年ほど。8年も前の新聞など処分してしまっている。


(それも津田の親父さんに頼むか)


 今はとにかく情報収集だ。それなくして事件の解決はありえない。まずは地道に情報を集め、事件の全体像を掴むべきだ。


 俺は方針をあらかた自分の中で固め、朝飯が運ばれてくるのを待った。待っている途中で日下部がリビングに入ってきた。少し眠そうな様子ではあるが、足取りはしっかりしている。


「日下部、おはよう」


「う······ん、おはよう、当麻くん」


 いつもより覇気がないように感じるかもしれないが、日下部は朝のときはいつもこんな感じだ。眠そうに目を擦り、そして、俺に見えないようにあくびをする。ほんとにいつもどおりだ。


 俺は明日からこのいつもどおりの光景を見ることができなくなる。それは、前から知っていたことであるし、俺が決めたことでもある。しかし、なんとなく寂しさのようなものが俺の中にはあった。昔の俺なら感じることすらなかった感覚だ。


 だからこのいつもどおりのこの光景が眩しく見えた。日下部とこんな光景を二人で見続けたいと思った。


「はーい、朝ごはんできたよ!」


「おう」


 俺は運ばれてくる皿を見て、いつも以上に豪華なものが次々と出てくることに気づいた。


「··········随分、朝から力が入っているな」


「そりゃ、お兄ちゃんの旅立ちの日だから、ね?」


「旅立ちっておおげさな··········」


 俺はりずはの言葉に呆れながらも食べ始めた。すごくおいしかった。


 ◇


「忘れ物、ない?」


 俺は玄関で靴を履いていると、りずはがそう声をかけてきた。俺は後ろを振り返り、


「ないよ。昨日から準備を始めたわけじゃない。だいぶ前からやってたし、忘れ物をするほどの物が部屋にない」


「それもそっか」


 りずはは納得したようにそう相槌を打った。俺はそんなりずはの様子に不審な目を向けた。


「どうかしたのか?なんかいつもと違う気がするんだけど········」


 このまま見て見ぬフリをして家を出発することはできるが、次会うのは4年後だ。心残りができてしまう。4年間もそれを抱え続けるのはさすがにキツすぎる。


「だって··············4年も会えないんでしょ······?」


「···········」


 りずはは泣きそうな声でそう言った。俺はそれを聞いて初めてりずはの気持ちを理解した。


 家族というものは身近なもの。


 そう、りずはは考えていた。実際、毎日顔を合わせ、話して、笑ったりして。そういった当たり前の日々をこれまで送ってきたのだ。そう考えるのは当たり前だ。


 今日、俺は東京へと引っ越す。俺が大学に通っている間はこの家には帰らないということはもう伝えてある。それを今更変えようだなんて思いもしない。俺の中では決定事項であるから。


 だから、これまでの当たり前の日々が瓦解することになる。当たり前が当たり前ではなくなる。


 そのことが、その事実が、りずはにとって泣きたいくらい悲しいことなのだ。


 世の中別れは付き物だ。何をしていたって必ず訪れる。それは、俺だけでなくりずはだって知ってる。


 だから、悲しい。たまらなく辛い。


 離れたくない、そういう気持ちは俺にもある。事件が解決できるかなんて分からないし、4年も帰らないのはおかしいのではないのかと何度も悩んだ。


 でも、俺は家を出ることをそれでも選んだ。それをりずはも、日下部も認めてくれた。


 俺は自分の意志を最後まで貫き通すと決めている。


「·········確かに4年は長いかもな。俺とりずはが次会うときはもうりずはは高校生だ。りずはが高校生になってる姿は今じゃあ、想像もつかない。多分、今より大人になってると思う。その過程の中で悲しいことや辛いことだってあるだろう。でも――――――――りずはなら乗り越えられる、そう俺は思う」


「どうしてそう思うの?」


「なんでって、そんなの決まってるだろ?」


 俺はクククッと笑い、そして言った。


「―――――――――――だからだ」


「··············!」


 りずはは驚いたように目を見開いた。俺はそんなりずはの様子に苦笑いを浮かべる。


「俺はこんなんでも、栄光高校で学年トップを取ってた。試験だって満点だ。勉強面で俺に勝てるのは順くらいだ」


 永遠のライバルとお互いに思っている。勝てたら嬉しいし、負けたら悔しい。そう思える相手だ。悩み事があればお互いに相談し合ったりできる存在だ。


 一番負けたくない相手であり、そして、一番相談しやすい相手。


 それを人は『“親友”』と呼ぶのだ。


「りずはなら一人でなんだってできる。まぁ、そのためには努力しないと行けないんだけどな。でも、努力した先にはりずはが今じゃ想像できないような世界がある。だから、頑張れ。そして、頑張り続けたその姿を4年後、俺に見せてくれよ」


 4年もあれば人は十分に変われるはずだ。努力し続けたその先にあるものはきっと明るい未来だ。誰もが笑い合って思い出話ができるような環境だ。


 りずはは勉強が苦手だ。けれど、4年後は?それは誰にも分からない。


 俺は7年もの間、勉強以外を切り捨ててきた。その時間も今では意味のある時間だと胸を張って言える。多くの間違いがあるのは知っているし、後悔もしてる。けれど、無駄ではなかった。


 これから先は何が起こるのかは分からない。いいこともあれば、悪いこともあるだろう。そのたびに悩んだり、苦しんだりすることだろう。だけれど、これまでの時間をもとに考えれば、仲間に相談すればきっと乗り越えられる。


 夢は願うものではなく、叶えるもの。


 そう誰かが言った。


 俺は夢を叶えるために色々、やっていこうと思う。


「行ってくる。次は4年後に会おうぜ!」


「うん!いってらっしゃい、お兄ちゃん!」


 りずはの笑顔を俺は見ると家から出発した。外は太陽がまぶしく照らしている。今日はほんとにいい天気だ。


 ◇


 俺は大宮駅に着くと、親父と母さんが立っていた。


「来てたのか、親父」


 俺は母さんに昨日の段階で一人で歩いて駅まで行きたいと言った。それは、栄光高校に通うのに通ってきた道を今日、歩きたいと思ったからだ。4年後では感じられないようなものがこの道のりにはあると思ったからだ。しかし、親父が来ているとは思わなかった。


「一応、見送りにと思ったからな。りずはは来ないのか?」


 可愛そうなやつを見たと言わんばかりの視線を当ててきた。最後まで嫌な性格をしているな、ほんと。


「りずはは今日も学校だ。もうそろそろで家を出る頃だろ········」


 りずはは俺と違い、今日も学校がある。別に卒業をしたわけではないから当然と言えば当然だが。


「そうだったのか··········」


「·········」


 どうせ親父のことだ、そんなこと聞かなくても知っていたであろうに。なぜ最後までこうなのか。結局のところ、俺と親父は何があろうと馬が合わないのかもしれない。

 俺は母さんに『行ってくる』と告げると急ぎ足で駅の中へと入ろうとした。


「当麻」


「?なんだよ、親父」



「············!ああ、


 親父はこの一言を言うためだけに駅まで来たのだろうか。本当は何か他に言いたいことがあったのではないのか、俺はそう思った。


 親父は俺のことを嫌っている、それは間違いないことだと今でも思う。俺自身もそうだし、親父だってきっと俺が嫌っていると思っていることだろう。互いに嫌いあっているのであれば馬が合うわけがない。親子だとかそんなことは関係ない。好き嫌いにしがらみや親子関係なんてものは関係ない。


 頑張ってこい。親父はそう言った。人様に迷惑をかけるなとか、気をつけろとかなにか他のことだって言う時間はあった。けれど親父はそれらを選択しなかった。他に言いたいことはあったが、それでも頑張れの一言に収めた。それはきっと、今日が最後ではないからだと思ったからではないのだろうか。4年後であろうと俺と親父は親子関係であることに変わりない。縁を切ろうとすることはできる。けれど、そんなことをしてもこれまでの時間が邪魔をしてくる。結局、縁など切れないのだ。


 親父が何を考えているのかは分からない。言い換えれば、親父は俺が何を考えているのかを理解できない。けれどそれでいい。俺と親父の関係の中には理解なんてものはいらない、馴れ合いなんて必要ない。そんなものがなくたって俺と親父は家族であることには変わりないのだから。


 ◇


「おはよう、当麻」


「待たせて悪いな、順、津田」


 俺は大宮駅に入り、改札をくぐり抜ける手前で順と津田と合流した。二人はすでに来ていたため、途中バタバタしてしまった。


「大丈夫だよ、当麻くん!時間に遅れてるわけじゃないし」


「少しの待ち時間くらいは問題ない。それに当麻にとっては今日挨拶とかをしないといけないだろ?」


「··········そうだな」


 順の言っていることはとどのつまりもう挨拶は済んだのか?そう言いたいのだろう。回りくどい言い回しをしているが、俺にはわかる。


「それよりもう行かないか?挨拶はもう済んだし」


「ああ········それなんだけど」


 順は気まずそうに顔を背けながらそう言うと、後ろから聞き覚えのある声がした。


「間に合ったか········良かった」


「そうですね、徳川くん」


「···········徳川に鳥橋か。どうしてここに?」


「見送りしに来たんだよ、切井。順に聞いたら4年も帰ってこないって話じゃねぇか。それなら今日、顔を見ておこうって思ってさ」


 なにやら順から俺が東京で4年間、日下部の過去の件に関して調べることをそれとなく徳川に伝えていたようだ。りずはもそうだが、なぜこうも俺が帰ってこないというだけでこんなに慌てるのだろうか。俺はそこまで別れを惜しまれるほどの人間ではないというのに。


「わざわざ悪いな、徳川、鳥橋。でも、あれだぞ?お前ら二人のことだから、水泳の大会とかでもしかしたら東京来るかもしれないだろ?ならどっかで会うこともあるかもしれないし」


「違いますよ、切井くん。友達がこれから頑張ろうとしている、その姿を見に私と徳川くんは来たんです。それに絶対はこの世には存在しない、そうですよね?」


「··········そう、だな」


「頑張ってくださいね、切井くん」

「頑張れよ、切井」


「「そして」」


「4年後にまた会いましょう」

「4年後にまた会おうぜ!」


「ああ、ありがとな。4年後にまた会おう」


 徳川と鳥橋はやることをすべてやったのか手を振りながら帰っていった。俺はそんな二人の背中を見続けた。


 ◇


 改札を通る前に津田がトイレに行きたいと言い出したため、再び待つことになった。


「わざわざ俺と同じ日に行かなくてもいいと今でも思うんだけどな。もともと引っ越す予定はなかったわけだろ?」


「そうだね、でもいいんだ。むしろ、これがいい。僕は君のライバルだから、遅れを取りたくないんだよ」


「負けず嫌いかよ」


 ライバルだから、なんて理由にはならない。きっと他の理由があるのだろう。それはただたんに俺が心配だからとか、そんなことかもしれない。けれど、俺には隣に今日も仲間がいる。そのことが今日からの新しい生活に対する不安を和らげてくれた。やはり持つべきは信頼できる親友の存在か。


「おまたせ、それじゃあ、行こっか」


 津田がトイレから戻ってきた。しかし、津田が向かう方向は改札ではない。俺は津田のこの行動になんとなく察しが付いた。


(隠す気がさらさらないんだろうなぁ·······)


 俺はやや呆れた目を津田に向けた。津田についていくとその先には案の定、日下部が立っていた。


「どう?驚いたでしょ?日下部さんが来てくれてるんだよ!」


「··········いや、ついていく前からもう気づいてたから。津田、お前隠す気なかっただろ?」


「てへっ?」


「···········」


 なんでだろう、どことなくコイツを殴りたい気分なんだが。順が『邪魔するのは悪いから』と津田を連れて行こうとしたが、俺はそれを制した。


「えっ?いやでも、二人のほうがいいんじゃ·········」


「いや、今日に関しては二人きりは気まずい。だから、一応ここにいてくれ」


 俺は順と津田から何言ってるんだコイツ?といった目を向けられた。俺は気にせず日下部と向き合う。


「見送りに来てくれてありがとな。出発まではまだ時間があるからいいが、そんな長くはいられないと思う」


「うん、分かってる。昨日聞いたときから覚悟は決まってるから」


 日下部はそう言って微笑んだ。


 俺の勝手のせいで4年会わないことになっている。その時間はとても長い。りずはが4年後には高校生となっているように、その時間は長い。

 今まで当たり前のように隣にいた存在は明日どころか4年間いない。それはきっと辛く悲しいことだ。

 日下部はその辛く悲しい時間を送る覚悟はもう決まっていると言った。俺が昨日言ったようにラインや電話をすることはできるとはいえ、お互いの温もりを感じることはできない。


 俺なら一日でそんな覚悟を決められるだろうか。いや、きっとできないだろう。

 俺は日下部を見た。先程と変わらず笑顔を浮かべている。だが、体が震えている。ぷるぷると何かをこらえるように日下部の体は震えていた。


「「·············!」」


 順と津田は気づいたようだ。なぜ、俺がふたりきりだと気まずいと言ったのは。

 答えは単純で、別れ惜しさに意思が揺らぐかもしれないからだ。俺がどれだけ覚悟を決めたとしても泣きそうな日下部を見たらきっと簡単に意志を変えてしまっていることだろう。

 俺はそれを避けるために二人を何がなんでもここにいさせる必要があった。


 日下部が泣きたい気持ちはわかる。俺だってそうだから。でも、泣くわけにはいかない。今は泣く時間じゃない。


「日下部」


「········当麻くん」


 日下部の目には涙がたまっていた。俺は声が震えるのを押さえて言う。


「4年だ」


「えっ?」


「4年で絶対にケリをつけてくる。日下部が苦しんだ過去を清算してくる。だから、日下部、お前は過去と向き合え」


 俺は手を握りしめて続けて言う。


「今のお前なら絶対にできる。今まで堪えてきたんだ。絶対にできる。それに、4年もあるんだ。日下部ならなんだってできる。俺だって協力する。だから―――――――」


「当麻くんは最後まで勝手だね」


 俺が言い切る前に日下部はそう言った。日下部はクスリと笑っている。俺は呆気にとられ、頭の中が真っ白になった。


「私ならって当麻くんは言うけど私の全部を当麻くんは知ってるの?」


「それは···········そこそこは知ってると思うけど」


「その·········スリーサイズとかも?」


「知るわけないだろ!!!!」


 何聞いてんだ、コイツは!!!


 日下部は少し顔を赤くしてうつむきながら俺を見てくる。俺は日下部に視線を当てることに戸惑いを覚え、視線を移していくと津田と順がニヤニヤしているのに気づいた。


「お前ら、何ニヤニヤしてやがる」


「いやぁ?別に?私はニヤニヤなんてしてないけど?どうぞどうぞ、思う存分、イチャついてください」


「「イチャついてなんかいないから」」


 俺と日下部は誤解を解くべく津田に詰め寄りあの手この手で説明をしたが、結局、誤解は解けなかった。


「そろそろ時間だよ、当麻」


「もうそんな時間か·······日下部」


「何?」


「昔やったことあるだろ?約束しておこうぜ」


「···········!約束って·········」


 日下部は何やら驚いたような目で俺を見た。俺はそんな日下部のことをお構いなしに宣言をする。


「俺は4年で日下部の過去の件を解決する」


 俺と日下部が明るい未来を送るために。


「私は4年で過去と向き合う」


 もう過去に苦しみ続けることを辞めるために。


 俺は日下部を見た。

 私は当麻くんを見た。


「「次会うときはお互いの目標を達成したとき!!」」


 俺と日下部はこうやって昔、約束をした。そして、二人ともその約束を果たすべく努力し続けた。


 私は結局、約束を果たせなかったけれど今回は違う。お互いが違う目標や目的を持って新しい環境へと進んでいく。


 その先には辛いことがあるだろう。


 その先の中で悩むことだってあるでしょう。


 だけど、俺たちなら

 だけど、私たちなら


 絶対に乗り越えられる。


 なんたって俺と日下部は――――――

 なんたって私と当麻くんは―――――


“世界最強なんだから”


「行ってくる、日下部」


「あ、待って当麻くん」


 日下部に袖を引っ張られ、俺はどうした?と聞こうとした。しかし、それはできなかった。


「わぁ」

「········!」


 津田と順は驚いたように俺と日下部を見ていた。それもそのはずだ。俺と日下部がキスをしていたから。


「いってらっしゃい、当麻くん」


「なっ···········!く、日下部!?」


「んん~~~~~ッ、このときくらい下の名前で呼んでよ」


「わ、分かったから。だから、少し離れろ!」


 俺はなんとか日下部から体を引き剥がすことに成功すると息を整えて言う。


「行ってくるよ、“響子”」


「うん、いってらっしゃい」


 俺は日下部と別れて東京へと向かうために改札を通った。


「日下部さんと4年も会えないのは当麻自身、辛くないのか?」


「問題ねぇよ。だって俺は一人じゃねぇからな」


 俺は空を見上げると雲ひとつない晴れ渡る空が広がっていた。








 そして物語は――――――――4年後へ。


 ――――――――――――――――――――

 次回『に会いに』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る