第8話 俺はいつでも喧嘩する
梅雨が明けてから10日がたった。台風が今年俺が住んでいる地域には来なかったがため、梅雨が多少短くなったらしい。新聞によると。
北海道には梅雨がない。そのぶん寒いし、欠点はどこにでもあるものだと思う。俺には苦手科目はないが。これは自慢ではない。事実を言っただけだ。
学校に向かって歩いていると、道中で日下部と出会った。
「おはよう、切井くん」
「オッス」
一言いうと互いに歩き始めた。会話は他愛のないことではあったが、俺が今まで不要だと捨てていたことをいましている。不思議なことだ。
不思議なことと言えば、こうして日下部と関わり続けていることもそうだ。俺と積極的に関わろうとするやつなどこれまで一人もいなかった。日下部だけなのだ。俺に話しかけてくるのは。俺と関わるのをやめようとしないのは。
学校に着くと、日下部とはクラスが違うため、途中で別れた。俺は、席につくなり、勉強を始めた。
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先生が教室に入って来て、クラスメイトが慌ただしく席に着き始めた。俺は学校に来てからずっと席に座っていたので慌てる必要はない。真面目所以のものだろう。
先生がホームルームをやっている。その中で、
「来週、全国模試があります。学校での争いだけでなく、全国の高校ニ年生の中での戦いとなります。いい結果を取れるよう、勉強しなさい」
先生のその言葉でホームルームは終わり、授業準備を俺は終わらせ、勉強を再開していく。ついに来たか!!
全国模試。
全国高校統一模試の略称だ。この結果により、学校の全国の順位、個人の順位がわかる。テストの問題そのものは今までの比ではなく、かなり難しい。模試関係で満点以外とったことのない俺ではあるが、こと全国模試においては満点は取れない。いや、取れていない。
俺が中学時代のときでは数学が192/200点が最高であった。全国では1位であったが、満点が取れなかったことは俺の中でショックだった。
一年に中学時代は一度しかなく、それ以上受けることすらできなかった全国模試がようやくまた受けられると思うとやる気がますます出てくる。
全国7位。所詮7位だ。
あの子のためにももっと上を目指さずにはいられない。
残り一週間。限られた時間の中、何ができるのか。それが今回の全国模試の結果に大きく響いてくる。勉強はやった分だけの成績が出てくる。逆を言えば、やらなければやらなかった分落ちる。勉強はそういうものだ。ペンを必死に動かし、全国模試対策をガンガン進めていった。
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全国模試まで残すところあと3日となった。
全国模試の過去問はすでに10周目に突入していた俺だが、やはり難しい。解けないことはないが、それでも時間配分をミスれば一環の終わり。トップにはなれない。
クッ。ペンをひたすらに動かし、全国模試の過去問のページをペラペラとめくっていく。
あと3日しかない。
時間がいくらあっても足りない。それはこれまで何度も感じていることだ。
努力はどれだけしても足りない。
努力をどれだけしても完璧にはなれない。
それでも俺は諦めるわけにはいかない。やれる限りのことをすべてやるんだ。3日のうちに!!
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全国模試当日。
「ふぅー」
俺は息を大きく吐き、勉強を終了する。間もなく、全国模試がスタートする。やれるだけのことはすべてやった。あとはただ信じる道を行けば良い!!
「全国統一高校模試、始め!!」
うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!
全国模試がスタートした。
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全国模試の結果が返却された。
国語189/200
数学198/200
英語182/200
社会197/200
理科179/200
合計945/1000
全国順位2位
クソッ!1位に届かなかった!!あれだけやってこれかよ!なんのために勉強してんだ、俺は!!
結果を見て俺は自分自身を責めた。こんな点数ではとてもではないが、あの子は救えない。俺が“小五”のときからずっと頑張ってきた。すべてを切り捨てて。だが、結果がこれでは意味がない。俺は、勉強の無意味さにひどく落ち込む。やはり俺には無理なのか?あの子を救うなんてヒーローのマネをしているだけで実際は無力な男子生徒の一人でしかないのか?
でも、俺には、俺には、俺には!
常々、詰めの甘さが後悔を呼ぶ。
ボンミス、マークミス、計算ミス、スペルミス。これらはすべて勉強不足によって生まれるものだ。そして、これらを詰めが甘いという。
バカをバカにしているつけが回ってきたんだろ、そう言われても何も言えない。俺はそれだけのことをしてきたからだ。
俺はトボトボと歩いていた。帰り道には俺が通う学校の生徒が何人も見られたが、俺はそんなものを見る気すら沸かない。結果は結果。変わることはない。全国7位から2位に上がったといえば、上がったと言えるわけだが、そんなことを言うつもりはない。勉強がしたりない。勉強の方法が間違っていた。いくらでも理由、原因は出てくる。それでも俺は。こんな結果では納得できない。
「切井くん、すごいよ!」
日下部が俺の後ろから大声で走ってきた。息は荒れ、急いで走ってきたことを伺わせる。髪もボサボサになっており、そんな急ぐ必要あったかと言いたい。
「なんだよ、日下部。用がないなら、俺は行くから」
「なに言ってるの?全国2位だよ?喜ぶべきだって!」
「だから、用がないならもう帰るって言ってるんだ!!!!!!」
俺は声を大きくしさけんだ。何が喜ぶべきだ。こんなんじゃ、意味がない!今までなんのために勉強してきたと思ってんだ。俺はこんな順位を取るために勉強してきたんじゃない!!
「き、切井くん?」
「もう、ほっといてくれ」
日下部にそう言い、俺は家に帰っていった。
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「クソッ!」
俺は間違い直しをしていてそう叫んだ。鉛筆や今回の全国模試の問題用紙を投げ捨てる。この程度の問題すら解けないのか俺は!このくらいなら過去問で何度もやっただろうが!なんで、なんで俺は。
本番で結果を出せなかったという経験のある人は分かるだろう。あれだけやったのに出来ない。その気持ちが。
後になってから後悔したって遅いというのに。俺は今日まで何をしてきたんだ?
「もう、わけが分からねぇ・・・・・・・・・」
俺はベットに倒れ込んだ。
意識はその後途絶えた。
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夢を見ていた。俺が小四の頃のことだ。俺は今みたいに勉強をしていなくて近所の奴らと遊んでいた。鬼ごっこやボール遊び、今にして言えば、くだらないの一言だ。外遊びそのものが俺は好きだった。昔は。
勉強するようになったのは、小5になる一月ほど前のことだろうか。細かくは覚えていない。もしかしたら、小5になっていたかもしれない。今となっては思い出すことが出来ない。
俺は近所の駅に行こうと自転車に乗り、道路を走っていた。信号が赤になると俺は周りを見て、車が来ていないことを知るなり、
行っちまうか。
そんな軽い調子で赤信号を渡った。
また意識が途絶える。
俺は目を覚ますと病院で寝ていた。何があったのか、全くわからない。それでも俺は体が痛むことから、ケガをしていることはわかった。なぜケガをしているのか。なぜ病院にいるのか。それらは全くわからないが何かがあった、何かをしてしまった。それだけが俺の心の中に残った。
あとになって、俺はどうなったのかを知った。
俺はそれから変わったと思う。勉強をやり始めるようになったのもこの頃からだ。近所の奴らと遊ぶことも無ければ、何もない。
俺には何も。
だからなのか?人のために勉強をする、そんなことは俺にはできないということなのか。無駄な足掻きということなのか。
『なに言ってるの?全国2位だよ?喜ぶべきだって!』
俺はそんなんじゃない。俺はもっとできる。でないと俺は。“あの子に顔向けできない”
目が覚めた。
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目が覚めると、りずはが俺を見ていた。りずはは俺を心配気に見ていた。全国模試の勉強でかなりコン詰めているのを見ていたからだろう。
「お兄ちゃん、日下部さんになにかした?」
りずははそう俺に聞いてきた。俺は思い出す。帰り際に日下部にイラつきのあまり言ってしまった言葉を。
『もう、ほっといてくれ』
人に八つ当たりとは情けないことをしたな。ほんとに俺はバカだ。とにかく日下部には謝らないとな。
「ああ、今から行くから日下部にそう言っておいてくれ」
「わかった」
りずははそれだけ言うと部屋から出ていった。
俺は準備だけをして、一階へと降りて行った。
一階に行くとりずはは日下部と喋っているようだった。楽しげな雰囲気が見られ、俺がその空気そのものを壊してしまうのだろうと思うと気が重い。今から気にしていても意味はないが。
「切井、くん」
「ああ、さっきは悪かった。焦って感情的になっちまった」
「わかっている。りずはちゃんから色々と聞いたから。切井くんが“なんのため”に勉強しているのかも」
俺は思わず日下部の顔を凝視してしまった。というのも、日下部に俺の過去を知られてしまった。そのことが気恥ずかしく思えたからだ。
「そ、そうか」
俺はそれ以外言いようがなかった。今までの流れからもしかしたら、気づいている可能性もあったと思うが、今日完全にバレてしまったようだ。別にバレてどうこうの問題ではない。
「昔の
「ああ」
「それは立派な理由だし、焦る必要もないんじゃないかな」
そうじゃない。俺はそんなことを言ってもらうために勉強してるんじゃない。焦る必要はない?焦らなければ取れないものだってある。無理しなければ勝ち取れないものだってある。
「全国模試の勉強、かなりコン詰めてやってたってりずはちゃんは心配していたよ。切井くん、次なら絶対大丈夫だよ。次なら」
次なら次ならって。それはいつのことだよ。それを聞くと俺が惨めに思えてくる。
何度やってもだめだった。一年の頃、行事すべてを休んで勉強してきた。
でも·······················ダメだった。
模試で一番なんてそうそう取れない。俺よりできるやつが多くいるのは一年の頃から知ってる。だから、次はない。今取らなければならなかったんだ。
俺はもう我慢ならなかった。
「次なんてねぇんだよ!!俺には次なんてねぇんだ。チャンスを棒に振るうことしかできない俺には。トップに入ることすらできないお前にはわからねぇだろうがな!」
はっ!?
俺は日下部のほうを見ると、日下部は涙していた。
「わからないのはそっちでしょ!!なんでそんなに頭が良くて、何でもできるのに人の心配を理解できないの!!!」
「心配してほしいなんて、誰が頼んだ!!俺はそんなこと頼んだ覚えはない!!」
「何でそんなに人の気持ちがわからないの!少しは人の気持ちを考えてよ!!!!!」
「他人には興味はない!」
もうそれ以上話すことはない。
日下部と俺はケンカ別れのように関係を壊した。
その原因はやはり俺だった。
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