4.側近はサキュバス

 吾輩は魔王である。王であるからには側近がいるのだ。そういうものなのだそうだ。


「魔王様」

「む、吾輩の側近ではないか。どうした?」

「側近ではなく私はラスティアです」

「……うむ、吾輩は名を覚えるのが苦手でな。側近が嫌なのであればサキュバスと呼ぼう」

「それはもっと嫌です!」

「う、うむ。わかった」


 吾輩の側近、サキュバスである。なぜかサキュバスと呼ばれることをひどく嫌っている。なぜかは吾輩にもわからない。

 側近はいつも吾輩の世話をしてくれている。紫色の髪に曲がった角がある。こうもりのような羽と尻尾を持つ魔物だ。姿自体は人間と似ている部分が多い。

 種族の特徴として、サキュバスは人間の男から精気を吸い取って自身の糧としている。そのため女の姿の方がいろいろと便利なのだそうだ。


「それで側近よ、どうしたというのだ?」

「……ラスティアです。はぁ……今日はもうそれでいいです。魔王様お聞きしたいことがあるのですが」

「なんだ。申してみよ」

「最近、勇者討伐に出たはずのゴブリンやミノタウロスやスライムをよく城で見かけます。聞くところによれば魔王様のご指示だそうですが。間違いありませんか?」

「うむ。吾輩の命令である。奴等には魔王城にいる方がよいのでな」

「何胸張って答えてんですか!!」


 側近が目尻を上げて声を荒らげる。

 これは……怒っているのか? なぜだ。吾輩は良いことしかしていないというのに。


「なんで怒られてるかわからない顔しないでくださいっ。まずはそうなった経緯を話してください」

「なぜわざわざそのようなことを言わねばならない?」

「い・い・か・ら」

「……それはだな――」


 やむなく事情を話すことにした。

 吾輩の方が側近よりも強くて偉いはずなのだが。なぜかは知らんが逆らえる気がしない。不思議である。

 事情を話し終えて側近の顔を見てみると、髪が逆立っていた。さっきよりも怒っているように見えるのは錯覚だろうか?


「あなた魔王でしょ! 魔物風情に言いくるめられてるんじゃないわよ!!」


 その魔物風情に怒られているのだが。魔王とは何なのだろうかと吾輩自身わからなくなりそうだ。


「今すぐ行きなさい」

「は? どこへだ?」

「あんたが言いくるめられた魔物の元に決まってるでしょうがっ!! さっさと勇者を倒しに行くように命令してきなさい!」

「だ、だが……」

「……」

「わ、わかった。では行ってくる」


 なんという圧力なのだろうか。目力だけで首を縦に振ることしかできなくなった。

 サキュバスにそんな魔眼などあっただろうか?

 それと、魔王を「あんた」と呼ぶのはどうかと思うぞ。言いそびれてしまったがな。うむ、仕方がない。

 そんなわけで、魔王自ら部下の元に出向かなければならなくなった。魔王城は広いのでけっこうな手間になりそうである。


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