3.スライムが狙われている

 吾輩は魔王である。最近は部下の話をよく聞いてやっているのでなかなか良い魔王だなと自画自賛中である。

 今日もまた吾輩の前に一匹の部下がやってきた。


「魔王様魔王様、聞いてください!」

「なんだスライムか。そんなに慌ててどうしたというのだ?」


 吾輩の前に姿を現したのはゼリー状の物体だった。スライムと呼ばれる魔物である。

 口もついていないこ奴と会話できる魔物はそうはいない。だが魔物の頂点たる吾輩ならばその程度のこと、問題にすらならない。


「僕はとっても普通のスライムなんですが、仲間の中には種類が別の光ったスライムがいるのはご存知ですか?」

「ああ、光沢のあるスライムがいたな」

「そのキラキラスライムがですね、勇者から追い回されているそうなんですよ」

「ほう?」


 勇者がわざわざスライムを狙うものなのか? 何が狙いなのだろうか。

 スライムの配置を思い出してみる。とくに人間の村や町を襲撃してはいないはずだが。


「なぜ狙われるのだ? 何かしたか」

「いいえ何も。むしろあのキラキラスライムは子育てしている個体が多いですからね。子供のためにも、勇者と遭遇しても戦わずにすぐ逃げちゃってますよ。……あっ」

「む、どうしたのだ?」

「い、いいえ……勇者を前にして戦わずして逃げているなんて、魔物失格ですよね」


 スライムはうねうねと項垂れていく。感情表現がわかりやすい魔物である。


「何を言うかと思えば。子がいるのであろう。ならば生き残るのも戦いだ」

「ま、魔王様……」

「親は子がいてこそ働き甲斐がある。だが、子もまた親がいなければ育たぬ。子がいるのなら生き残らなければな」


 スライムはぷるぷると震えている。目なんてものは存在しないのに涙でも流しそうだ。


「それにしてもスライムが狙われる原因か。考えた方がいいだろうか」

「聞いた話ですが、勇者は『いい経験値だぜ』と言っていたそうです。何のことでしょうか?」

「ふむ、経験値か」


 どこかで聞いたことのある単語だ。はて、どこだったか。

 少し思い返してみる。わりと最近だったはずだ。


「あのゴブリンか」


 そういえばゴブリンからそんなことを聞いた気がする。勇者にいい経験値を与えてはならないのだったか。

 だとしたらまずい。このままスライムが狙われては勇者が強くなってしまうではないか。

 これを放置していてはいずれ吾輩を超えるほどに勇者が強くなってしまう。すぐに対策を取らねばなるまい。


「スライムよ」

「はい魔王様」

「スライムは全員この魔王城へと帰還せよ。魔王である吾輩の命令である」

「ま、魔王様……。はい、仰せのままに」


 スライムはうにょうにょとした動きで走って行った。

 これでよし。スライムがいなければ勇者のいい経験値になることはないだろう。

 ふぅ、今日もまた魔王としての責務を果たしたな。

 やはり部下の話を聞くのは大切なことだろうな。魔王として良いことをしたぞ。


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