(12)

「なあ、下手な『悪』より『正義の暴走』の方が恐いって言うよなぁ……」

 俺は、猿渡のおっちゃんと酒を飲みながら、そう言った。

「どこの自称『ネット論客』が言ってる非現実的かつ御花畑なタワ言ですか、それ?」

 しょ〜もないツッコミは無視するに限る。

「ねぇ、警察でも『正義の暴走』をやらかした奴こそ取締ってもらえないの?」

「誰の事を言ってんですか?」

「自称『御当地ヒーロー』とかさ……」

「無理ですよ。もう、あいつらが居ないと、治安が保てない……。警察が昔からやってきたやり方は、もう古臭くて使えない代物なり下った……そんな時代になっちまったんですよ」

「そんなモノなの?」

「警察ほど体育会系の組織は無いけど……体育会のメンタリティってのは『精神操作』系の異能力への抵抗力訓練と相性がクソ悪い。だから……この御時世、警察のやり方は行き詰まる。。……もう、二〇年以上前から判ってた事ですよ。で……とっとと用を済ませていいですか?」

「あとさ……俺の親父オヤジ、どうしてる?」

「あのねぇ……親子でしょ。直接、聞けば……」

「いや、色々と有ったからさぁ……」

「薄々は知ってますよ。実の娘とその亭主を監禁してるのが、実の息子だって事は……。ただ、周囲には、優斗さんは病気で寝込んでる事にしてますが……。まだ、県警には届けてません」

「ああ、そう。一応、実の妹とその亭主なんで……飯は、ちゃんと食わせてる」

「どうする気なんですか? 解放したって、家庭崩壊は確実ですよ」

「そう言うけどさ。あいつらがやろうしたのも……『正義の暴走』だよなぁ……。下手な悪より……タチが悪い真似をやらかそうとしてたのは、あいつらだよ」

「あのねぇ、実の兄が人1人殺したかもと知ったら警察に通報するのが、普通の……」

「いや、普通じゃねえよ。『正義の暴走』だよ。表沙汰になったら、親父オヤジの政治生命は終る。そうなったら、迷惑を被るのは親父オヤジだけじゃない」

「あのねぇ……冗談にしても……その……」

 えっ? 冗談って何だ? 俺の言ってる事ってド正論だろ?

「とりあえず、頼んでた情報は?」

「はい」

 そう言って、猿渡のおっちゃんは……封筒を渡した。

「今時、紙の資料?」

「昔からの慣習ですよ」

 だが、封筒の中に入っていた資料は……。

「何……この、県警の公安って……?」

「富士山が御機嫌斜めになって、関東が壊滅してから、公安も仕事が無いんですよ。文字通り、世の中が引っくり返ったんだから……。『反政府団体』や『国益を損うやから』を監視したくても、もう、政府も国も消えちまったせいでね。だから、各県警の公安は、『関東難民』を監視して、仕事してるフリをして、給料をもらってんですよ」

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