第三章 Prologue
「ケンシ寒いよ。私も手を繋ぎたいんだけど」
周りのカップルを見て俺にも手を差し出してくるんだけど、手を繋ぐ意味が分からない。
「なんで?嫌だよ恥ずかしい…ポケットに手を突っ込んでおくのが一番暖かいよ」
「うわーその一言でお手手だけじゃなく心まで寒くなりましたよ。これ手を繋ぐだけじゃなくハグしてもらわないと無理かも」
「あ!俺用事思い出したからここから別行動にしよう!」
「嘘です。嘘です!真面目に探しますから帰らないで…」
現在12月19日の学校帰り。
駅前のショッピングモールで茅ヶ崎彩音と二人お買い物中である。
ことの発端はニ日前の夜。彼女からのLINEから始まった。
『ケンシ。明日か明後日か明明後日って何してる?ケンシが暇ならデートしてあげてもいいんだけどさ。どうする?』
『五年後くらいなら空いてるよ。その時は同窓会って言う名前で皆んなでグループ交際でもしようね!じゃあ、おやすみ』
『ちょー意味わからんない!笑 愛子もうすぐ誕生日じゃん。プレゼント私も渡したいからケンシまだなら一緒に買いに行きたかったし、ケンシがもう買っちゃってたら参考にさせて欲しいのに!』
え?誕生日?誕生日ってあのバースデー的なやつ?俗に言う生誕祭とかそれ系の?シャンパンタワーとかにクッソ高い飲み物注いでウェイウェイやるやつだよね?
いつだよ。マジ聞いてないよ。
あの子自分からそう言うの言う子じゃないし、それでいて俺の誕生日どころか仲の良い子達のは絶対知ってそうだし。
なんなら俺の姉の小春、通称ねぇねの誕生日とかまで把握していて、
「明日は小春さんの誕生日でしょ?たっちゃんはなにをあげるの?」とか突然言われるまである。
これは参った…
リビングで相変わらず二人で団欒してる姉の小春といつの間にか居候の如く我が家に住み着いている担任教師の長富杏香に、佐藤愛子の誕生日の事を聞いてみた。
二人に素で驚いた顔をされて
「むしろここでパーティーやるの言ってなかったっけ?そんなプレゼントはとっくに用意してると思ってたわ。あれ?じゃあタツは誰もこのパーティーに誘っていないの?」
ねぇねが呆れたような嘆息を吐くと、長富杏香には
「これはあれだな。ある意味お前ら二人にとってのサプライズパーティーだったのにな。それはそれで見てみたかったな。二人の罰が悪そうな顔とかそのあとわたしに愚痴りながらあの人は私の誕生日を祝ってくれる気持ちもないって泣く愛子とか」
ニシシって性格悪そうに笑っててムカついたけど、本当そう言う意味では茅ヶ崎彩音にはちょー感謝。
で、二年三組のスーパーアイドル佐藤愛子の生誕祭を明日の土曜に控えた放課後の現在が今なのである。
「これとかどう?」
そう言って茅ヶ崎彩音が見せてきたのはマフラー?みたいな暖かそうな布である。
「マフラーならこの間俺あげたからな。そんな何本も女子は使うものなの?」
「あーやっぱり!なんか二人似たようなやつしてるなって思ったんだよね。愛子に聞いたらうふふってめっちゃ笑顔なんだけど教えてくれなくて」
「なんかほら、球技大会で優勝したからプレゼントって先に渡されたんだけどさ。優勝したのお前もだろって言ったら同じの欲しい、お揃いが良いって言われて…」
「いや、優勝したの私もなんだけど!何二人でイチャイチャしてプレゼント交換なんてしてるのよ!最近なんて手繋いで登校してきてるし!もう!」
なんか変な逆鱗に触れちゃたようでぷりぷり怒ってる茅ヶ崎彩音。
多分この子も俺に好意を持ってくれてはいるようなのだが、それを確かめたこともないし、応えてあげられない想いを俺から聞くつもりもないし、友人関係ゼロだった俺から言わせれば、この子とのこう言う今が凄く好きで、出来ればこのままの関係が望ましいって思ってるのは我儘なのだろうか。
多分そうなんだと思うけど、高校生の間はこのままでいたいと願わずにいられなかった。
「わかったよ。買うよ。茅ヶ崎さんにも何か買ってあげる。一緒に優勝した仲間だからね。仲間。そう仲間に何かあげるのって友達同士ではよくある事だよね?俺友達いないから知らんけど…あーあれだな俺はきっと小学生の時に友達100人出来なかったからこんな捻くれた性格になったんだろうな…一年生になったら友達100人作らなきゃダメだろ!って教訓を態々歌にして教えてくれてたのに、悲しいな…」
「愛子も言ってたけど、最近ケンシは声に出してくだらない妄想言うようになったよね…何で私にプレゼントあげるって話しから、ケンシの悲壮な過去の告白にシフトしたのかちょー意味わからない…」
微苦笑した茅ヶ崎彩音が大袈裟なリアクションで嘆息を吐く。
佐藤愛子の可愛いさがあまりにも目立っているけど、茅ヶ崎彩音もボブのショートカットがとても似合う可愛い女の子だと思う。
「で、茅ヶ崎さんは何か欲しいものとかあるの?予算的には…鉛筆とか消しゴムなら買えるかな?」
「えーもうちょい思い出に残るやつがいいんだけど。ほらこれとかさ」
そう言って広げているのは先程佐藤愛子にどうかなって言ってた布で、聞くと膝掛け、ストールってやつらしい。
冬なのにそんな短いスカート履いて女子も大変だよね。
「なら、茅ヶ崎さんがそれをあいつに買ってあげなよ。色違いで佐藤とのお揃いを俺が買ってあげるとかはどう?」
「ちょーいい!欲しい!欲しい!愛子とお揃いでケンシからのプレゼントでちょー嬉しい!」
それ、まだ君のものじゃないからグイグイ抱きしめて踊らない方がいいと思うよ。
見てごらん店員さんの険しい顔を…
佐藤愛子用のプレゼントはマフラーやピーコートとお揃いの紺色を選択。薄く緑色のタータンチェックが入っていて、偶然なのか必然なのか、マフラーと同じブランドだったようだ。
茅ヶ崎彩音のやつは、色は一緒だがこちらは赤のタータンチェックが入ったものだった。
佐藤愛子のプレゼントを大事そうに抱え、俺から渡したプレゼントを嬉しそうにニコニコして抱きしめている。
茅ヶ崎彩音だって二年生になってから何人にも告白されているらしいし、十二月に入ってからだけでも、廊下に呼び出されてるのを見たのは一度や二度じゃなかった。
その事で彼女を揶揄うと
「愛子がケンシにベッタリなとこ見せつけちゃってるからね。私に御鉢が回ってきてるんだよ」
じっと俺の目を見つめそう言う彼女は、なんだか少しだけ機嫌が悪く見え、揶揄った事がなんか申し訳ない気持ちになったのを覚えている。
そんな事もあったし、色んな意味での謝罪も込めてプレゼントを渡した。
「俺はどうするかな…何あげたら喜ぶかな。ねぇね以外の女にプレゼントしたのなんてこれが初めてだからな」
彼女に今しがた渡したストールをチラ見する。
「おーケンシの初めてもらっちゃったよ。ちょー嬉しいかも。ん?ねぇねってのは誰だ?」
あれ?茅ヶ崎彩音は小春と会った事ないか。うわーつい癖でまた人前でねぇねって呼んじゃったよ。なので誤魔化すように
「おーそう言えば佐藤愛子生誕祭を俺の家でやるんだった。茅ヶ崎さんも何もなければおいでよ。ただのマンションだからそんな人呼べないけどさ。半田とか渡辺さん空いてるかな?」
「行く!絶対行く!予備校サボっても行くから!じゃあ明日渡そうと思ったけど、その時に渡せばいいか。うわーちょー楽しみになってきた」
そんなこんなで土曜日。うちの飾り付けや料理とかをねぇねや長富杏香に任せてしまった。
「お前はむしろデートしてこい。二人で出かけてこい」
夜はうちでパーティーをやる事は事前に伝わっていたものの、昼間もお出かけしない?って事を打っては消しを何度も繰り返して、ようやくメッセージを送ったのが、長富杏香にケツを叩かれてから丁度一時間後の事だった。
送ってすぐに既読が着いたそのメッセージには行く!って短いメッセージがすぐさま来て、その後にどこに行くのか、何をしたいかとか色々来たのだが、とりあえず待ち合わせ場所と時間だけを決めて、明日のためにってお互いに寝ることにした。
ま、そんな感じで生誕祭までの幕が切って落とされたのである。
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