第232話 報せ 其の二
三人で盛り上がっていると、封筒を持ってきた人が気まずそうに口を開く。
「……あの、言いにくいのですが一度最初から最後まで目を通していただけると……」
反応を見るに、他の部分に何か重要なことが書かれているんだろうか。一度最後まで読んでみる。
「…………貴パーティにおきましては、Aランク相当のモンスターが出現する最寄りのギルドを貴パーティのみが拠点にすることの禁止を条件に、Aランク昇格をここに認めます──って」
ええと──つまりAランク相当のモンスターの対応として近いギルドに俺だけが常駐することはできないってことか? 常駐するなら最低でももうひとパーティ必要、と。
「それは──」
師匠は言葉をかけようとしたが何と言っていいか分からなくなっているようだ。あの夜から師匠は俺に「ここを出ていきたいのか」とは訊かなかったし、俺も急に言い出すと会話を聴いていたことがバレてしまうと思ってそのまま言い出せないままだった。
だから師匠としては嬉しいはずだが、俺がAランクモンスターの対応をするために昇格したのだったら喜べず、言葉を持て余しているといったところだろうか。
ああもう、こうなるんだったら盗み聞きがバレてもいいから言っておくべきだった。微妙な雰囲気を破るように俺は言葉を紡ぐ。
「別に構いません。もともとその気はありませんので」
「そうですか──ではその点も確認されたということなので、私はこれで」
気の毒そうにしていた本部の人の顔が、ケロッとした俺の返答を聞いて少し和らいだように見えた。馬車が出ていくのを見送ってから、後ろを振り向くと師匠が少し涙ぐんでいた。
「コルネくん、じゃあこれからも一緒に暮らせるんだね。でもどこかに行ってAランクモンスターから村を守るんじゃないんなら、なんでAランクになりたいと思ったんだい? どうしても倒したいモンスターがいるとか?」
「いえ──最初はただ成長した証のようなものがほしくて……まだ期限のことを知らなかったので、ちょっとヴィレアにはいないモンスターと闘ってみたいな──っていう気持ちが大きかったと思います」
もう師匠にAランクになりたいと言ったあの夜は一年くらい前のことになるのか。
「実際に旅に出てからはいろんなモンスターと闘って経験を積みたいとか、練習した闘い方が実際に通じるか確かめたいとか、そういう気持ちが大きかったです。だから──ここを出ていくつもりはありませんでしたし、しばらく『指名』もないと踏んでました」
「そっか……証かぁ。たしかに分かりやすい基準ではあるからね。何にせよ、これで正真正銘のAランクだ! おめでとう!」
納得したようにそう言って、師匠は嬉しそうに俺にハグをした。
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