第231話 報せ

 それから俺の生活は元の平穏を取り戻した。昼間は毎日の修行をし、一日おきくらいにヴィレアへクエストを受けに行く。以前のように師匠が俺の修行につきあってくれて、洗濯物を干しにヘルガさんが外に出てくることもあって──旅に出る前と同じのんびりと落ち着いた日々を過ごしている。


 ここ最近、師匠はトレトで採ってきた魔力結晶を眺めてうっとりしていることが多い。師匠曰く、微妙な色味の違いを確かめたり、光に透かしてみたりとずっと見ていても飽きないそうだ。


 ラムハで一緒に採った最奥部の巨大な魔力結晶も毎日欠かさず磨いているし、師匠は本当に魔力結晶が好きなんだと常々思う。


 俺も今回トレトのダンジョンでそれなりの数の魔力結晶が手に入ったが、どうしようかと持て余している。俺の剣を作り直してもらうときのためにいくつかは必要だが、それも系統の関係で使えなさそうなものも多い。


 そういったものは俺が持っていても仕方ないので孤児院に持っていこうと思う。ただ孤児院に置いておくと貴重な魔力結晶があると噂になってさすがに危険なので、俺が今度行ったときに持っていって、帰るときに一緒に持ち帰ろう。


 あとはアドレアにマリー、ローラン──魔法を使う人に会ったときにあげようかな。売って誰か分からない人に使われるよりは見知った人に使ってもらいたい。いつ会えるかは分からないが、それまではとっておこう。


 トレトから帰ってひと月が経ち、今日も今日とて道場の裏手で師匠と修行をしていると、道から誰かが向かってきている音がした。もしやと思い、即座に持っていた重い練習用の剣を置いて、玄関に向かう。


 何も持っていなかった師匠の方が玄関に着くのは早く、扉を開けると冒険者ギルド所属と名乗る人が封筒を持ってきたようだった。


 とうとう来たか……この中にAランク昇格か否かが書かれているんだろう。促されるまま俺は封筒を開け、中に入っている紙を見る。長々と文章が書かれていたが、一番下の行に俺の目は吸い寄せられる。


「──Aランク昇格をここに認めます」


 思わず口から零れた書状の内容を聞いて、師匠たちは大喜びだった。

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