第172話 ルミーヴィアへの旅

 マリー、俺、師匠、兄さんの順に横一列に並んで、まずはラムハへと向かう。すれ違う人もほとんどいないため、道幅の半分以上を占拠してしまっているが人が来る度に避ければ問題はない。


 最近の様子を見ると、どうやら俺が知らない間に兄さんとマリーが仲良くなっていたらしく、兄さんとマリーと俺の三人はお互いに親交がある。それに対して、師匠は俺以外は初対面だ。


 正確にはマリーは道場に訪ねてきたことがあったためそうではないが、すぐ帰ってもらったらしいから実質は初対面だろう。


 だからてっきり、師匠が端っこで隣に俺──という並び順になると思っていたのだが、自然と師匠の横に兄さんが行って今の並びになっている。


「あの、昔からずっとロンド様に憧れてて──握手していただいてもいいですか?」

「もちろんだよ」

「あ、ああありがとうございます!」


 横から兄さんと師匠のやりとりが聞こえてくる。あちらはあちらで盛り上がっているようだ。


 どうやら俺の想像よりも兄さんは師匠に憧れていたらしい。


「私、向こうで上手くやっていけるかな……紹介状もあるしアルノさんもいるから門前払いってことはないだろうけど……」


 向こうの二人には聞こえないように小さな声で俺に話すマリーは不安そうだった。俺の中ではマリーはもっと強いイメージだったから意外だった。


 言われてみれば、マリーにとって一人で遠くに行くのは初めての経験かもしれない。パーティがなくなった後も、唯一ミャクーに残って家族と暮らしていたのだから。


 なんで俺は初めて一人でラムハまで行ったとき不安に思わなかったんだろう──師匠の弟子になれるかもという興奮に支配されていたからか。その後、若干怖い思いはしたが。


「きっとマリーなら大丈夫だよ。それに今考えても仕方のないことだろ」

「そう……だね。会ってみるまで分からないよね」


 マリーの表情が少し明るくなるのを見て安心する。


「ロンド様って、なんか思ってたより話しやすくて安心した。前に私が道場を訪ねたときは、無表情の女の人に阻まれてあまり話せなかったから……」

「ああ、ヘルガさんか。うち、結構いろんな人が来るみたいだから警戒してたんだと思う。不意打ちをされる可能性もあるし、きっと安易に師匠には近づかせないようにしてたんだよ」

「なるほどねぇ、至近距離だと暗器も避けられないし──Sランク冒険者も楽じゃないってことか」


 少し同情するような目をするマリー。話しているうちにいつものマリーに戻っているようでよかった。


「そうだ、最近は報告だけであんまり話せてなかったじゃん? 里帰りでこっちに来てた後、何してたか教えてよ」

「あの後だと──収穫祭からかな」

「あ! もしかして昔、みんなで行きたいって話してたラムハの収穫祭? そっか、コルネはラムハ住みだもんね。で、どうだった?」


 これまでにないほど食いつきのいいマリー。そりゃあ気になるよな。


「たくさん人がいてびっくりした。あと師匠とステージで演舞みたいなのをして──ほら、前マリーに見せたやつを二人でやって、それに音楽を合わせた感じかな」

「すごいじゃん! 初めての収穫祭なのにステージに立っちゃうなんて。きっと綺麗だったんだろうな……それで観客の反応は?」

「びっくりするほど大盛り上がりでさ。歓声がしばらく鳴りやまないくらいで、本当にやってよかったって思った」


 よかったじゃん、と晴れやかに笑うマリー。久しぶりに何日も一緒に過ごすから気まずくならないかと心配していたが、楽しい旅になりそうだ。

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