第171話 旅立ち
師匠が書類を提出してから二週間が経過した頃、国から申請が通ったという報せがあった。出発予定日が三日後に迫っていてハラハラしていたところへの一報に、歓びも
二週間ぶりにミャクーまでひとっ走りして報告を入れてくると、二人とも安心した様子だった。
俺たちの旅程はこうだ──まず俺と師匠がミャクーまで二人を迎えに行き、そこからラムハや他の都市を経由しつつ北上していく。
二人にラムハに来てもらった方が手っ取り早いのだが、マリーは出来るだけギリギリまで家族といたいだろうということを考慮してこうなった。
まあ俺と師匠は魔力操作ですっ飛ばして行けば、さして時間がかかるわけではない。この後、三日かけてゆっくりとルミーヴィアまで歩いていくことを考えれば、大した負担にはならないだろう。
今回の旅では行ったことのない北東部の都市に寄ることになっており、とても楽しみだ。
出発日当日──しっかりと朝餉を食べた後、ヘルガさんに見送られた俺と師匠は走ってミャクーへと向かう。
「コルネくん、速くなったね。急がなくても集合の時間には間に合いそうだけど──無理はしてない?」
「ありがとうございます。軽く走ってるだけですよ」
やはり師匠の目から見ても修行のメニューが一新されてからスピードは格段に上がっているようだ。俺はこのくらいのスピードでいつもヴィレアに行っていたから慣れてしまっていたが、師匠が俺の走りを見るのは久しぶりだろう。
「僕、あの辺は久しぶりに行くからもう楽しみで楽しみで、昨日なかなか寝付けなくってさ。コルネくんはちゃんと寝られた?」
「俺も同じですよ。いまだに旅の前はこうですね」
俺だけかと思っていたら師匠も楽しみで寝付けなかったとは──もしかしたら結構似た者同士なのかもしれない。
その後もどこで何を食べたいだとか、ここの名所に行きたいだとか、喋りながら走っているとミャクーが見えてくる。
集合場所であるマリーの店の前には、すでにマリーと兄さん、そしてマリーのお父さんが集まっていた。
あまりスピードを落とさずに来てしまったため、急に俺たちが現れてびっくりしている三人に師匠が挨拶をする。
「はじめまして、ロンドです。マリーさんとアルノくん、かな。いつもコルネくんがお世話になってます。今回は一緒に旅をするということで、よろしくお願いします」
「はじめまして、マリーと申します。この度は私の旅に付き合っていただいてありがとうございます。護衛としての報酬もお支払いできませんのに……本当に助かりました。相場には程遠いですが、お支払いしますね」
「いえいえ、そんな──そのお金はとっておいて自分のために使いなさい。きっと向こうでお金が必要になるし、何よりそれ以上の報酬が待ってるからね」
俺のよく知るマリーが師匠に丁寧に挨拶しているのは、なんというか新鮮だ。
「はっ、はじめまして。アルノと申します。あ、あの今回は本当にロンド様と旅ができるということで──図々しいお願いだったと思いますが、きょ、許可していただいてありがとうございます」
「アルノくん、きみには是非一度会ってみたくてね。今のコルネくんがあるのも、きみが剣術を教えてくれていたからといっても過言じゃないよ。本当にありがとう」
「……っ!」
師匠の前でガチガチになっていた兄さんは予想もしていなかった言葉が返ってきたために、感激しているようだ。
「えーと、そちらは──」
マリーのお父さんを差して探るように訊く師匠。そうか、マリー以外は初対面だし、一緒に行く面子にも入っていなかったのだから分かるはずがない。
「マリーの父です。この度は娘とルミーヴィアまでご一緒いただけるということで、ありがとうございます。本当に娘も困り果てていたところでして、なんと感謝を伝えればよいやら。うちの娘をよろしくお願い致します、ロンド様」
そう言って深々と頭を下げるマリーのお父さん。
「頭を上げてください。お父様、娘さんは責任を持ってルミーヴィアまでお送りします。僕の方こそ、普段あまりラムハから出られないので娘さんには感謝しています」
一通り挨拶を終えて、そろそろ出発しようかという雰囲気になる。
「じゃ、私行ってくるよ、パパ。元気でね」
「向こうでもしっかりやるんだよ。体には気を付けて──」
涙声になりながらそう言ってマリーをぎゅっと抱きしめるお父さん。マリーの方も泣いている。
長い抱擁の後に、赤い目のままマリーのお父さんは優しい顔で告げる。
「いってらっしゃい、マリー」
「いってきます、パパ」
そう言ってマリーは歩きだす。それに続いて俺たちも一緒に歩きだした。
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