第142話 ステージを終えて 其の二

 打ち上げのために一人寂しく料理を作っていると、誰かが来た気配がする。まだロンド様たちが帰ってくるには早いし、六人もいる様子ではない。


 短くため息をつき、私は野菜を洗う手を止める。どうやら賊は正面の窓から押し入るつもりのようだ。


 よくもまあ堂々と正面から──舐められたものだ。ロンド様たちはステージに向かわれたからここは留守だとでも思われたのだろうか。


 窓を割られると面倒なので、玄関へと急ぎ向かう。扉を勢いよく開けると、ちょうど窓を割ろうとしているところだった。


 賊が視界に入るや否や、氷の魔法──氷漬けにする魔法を放つ。


「フローズン」


 その言葉と同時に目の前の賊は、寒さにガタガタと震えだす──が、それもじきに氷に包まれ動かなくなる。


 氷漬けになった賊を横倒しにしてから転がし、玄関の前まで移動する。これでしばらくは賊除けになるだろう。


 加減を間違えていなければ、ロンド様たちが帰ってくる頃には氷は溶けて賊は逃げ出しているはずだから痕跡も残らない。


 はっ……こんなことをしている場合ではない。急いで料理を作らなければ、ロンド様たちが帰ってくるのに間に合わなくなる。


 * * *


 ヘルガさんの料理はいつも通りどれも美味しくて、みんな大満足だった。


 アルとドリーのステーキを頬張る顔はとても幸せそうだし、セレナさんはヘルガさんにレシピを訊いている。


 師匠とマシューさんは二人でお酒を飲んでいるようだ。師匠がお酒を飲んでいる姿はあまり見たことがなかったが、ほろ酔いくらいにとどめているようだ。


 「来年もやろう」だとか「組んでよかった」だとか、そういう話が流れてくる。


 大人たちが盛り上がっている横で、俺はアルとドリーが美味しそうに食べるのを見ながらご馳走を食べている。


 仲間外れにされている気がして少しだけ面白くないという気持ちはあるが、ごはんが美味しいから別にいいか。




 ごはんを食べ終えマシュー一家が帰ると、ヘルガさんは洗い物を始める。師匠はテーブルに突っ伏していびきをかいている。


「コルネくん、ロンド様をベッドまで運んできてください」


 ここで寝かせるわけにもいかないし運ぶしかないわな。揺すっても起きないから寝たままおんぶするしかない。


 テーブルに乗っている上体を無理やり起こし、俺の背中に乗せる。そして脚の付け根を抱えて立ち上がる。


 重い……が、師匠の部屋までくらいならどうにかなるだろう。俺も伊達に体を鍛えているわけではないのだから、師匠の一人や二人くらい余裕で運べる。


 うまく重心を移動させて扉を開け、師匠の部屋に入る。師匠の部屋はいつも整頓されているのだが、今は床に見慣れない大きな袋がある。


 師匠が床にものを置くなんて珍しいな。そんなことを考えながら、師匠のベッドに座る。


 「ベッドですよ、下りてください」と俺が言うと、意識があったのか師匠はもぞもぞと動いて俺の背中から下りると、べたあとベッドに肢体を投げ出し、また平和にいびきをかき始めた。


 人の苦労も知らないで──と思ったが、師匠はいろいろ大変なのだ。でっかいいびきをかきながら負ぶわれてベッドまで運んでもらう──そんな日があってもいいだろう。


 おやすみなさい、師匠。ベッドの端で丁寧に畳まれているブランケットを、俺はそっとかける。

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