第111話 レオンの苦悩

 コルネが帰った後のレオンの剣術道場では、いつもと変わらず大きな掛け声があちこちから聞こえていた。コルネがいなくなっても、レオンの弟子たちは強くなるために己を鍛え続けるのだ。


 そんな中、道場の師範であるレオンは一人悩んでいた。


「どうしたものか……」


 口から零れた言葉は誰もいない部屋の中を漂う。


(たしかにわしはコルネくんが来ることで、弟子たちのいい刺激になってくれればとは思っておった。しかし、こんな形で刺激を受けるとは思っておらんかった……まさかクネクネになってしまうとは)


 コルネが帰った後、コルネが魔力操作を教えていた弟子のうち、何人かは魔力操作が出来るようになった。


 この魔力操作が彼らが目をつけていた通り、強かったのだ。模擬戦の中でこの魔力操作を使うと、予測される動きから外れた動きが出来るのだ。


 剣で戦っているとき、人はお互いに次の動きを予測しながら動いている。そこにいきなり予想外の動きをされるとどうなるか──対応が遅れたり、もろに一撃を食らってしまったりするだろう。


 魔力操作を習得した弟子たちはみな上のグループに属している者ばかり──つまり、その剣術や体術はかなり高いレベルにある。


 それゆえに、相手がこちらの動きをどう読んでいるか、そしてそこでされると最も嫌であろう動きが手に取るように分かる。その通りに魔力操作を使って動けば、相手は見事に隙を突かれてしまうというわけだ。


 これの最も厄介な点は、「魔力操作を使っても使わなくてもいい」というところにある。魔力操作には予備動作がほとんどないため、使ってくるかこないかが分からないのだ。


 だから魔力操作を使う側は、相手に魔力操作を使ってどう動くかを読まれたとしても、「使ったときの動き」と「使わなかったときの動き」の二択を強制できる。


 この二択で正解を選び続けるのは現実的ではないので、相手はあまり隙が生まれない無難な動きしか出来なくなってしまう。こうして魔力操作を使えない人が使える人に勝つのが困難になってしまったのだ。


(弟子が強くなることはいいこと──いいことなんじゃが…………そのせいで他の弟子に影響が出ておる。これは魔力操作が使える者は使える者としか戦わないという規則を設けた方がいいんじゃろうか……)


 そう考え、魔力操作が使える者を挙げていくレオン。


(──にヨーゼフで全員かの。ふぅ、昨日の手合わせではなんとか勝てたが危なかったわい……ありゃあ危険じゃの、もしかしたらわしが弟子に倒される日も来るのかもしれんのう。師匠としては喜ばしいことなんじゃが、一人の剣士としてはやはり悔しいのう。)


 弟子の知らないところで悶々と悩むレオンだった。

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