第109話 懐かしい顔(マリー視点)
私はお店を手伝いながらお客さんに、回復魔法を教えてくれそうな人を知らないか、と来る日も来る日も訊き続けた。パパが店番をしているときは私に代わってパパがお客さん一人一人に訊いてくれた。
しかしそんな人は見つからないまま、ただ数か月が過ぎた。その間に、私は仕込みを手伝えるくらいにはパン作りの腕を上げていた。
これでパパの負担を減らせるようになったことは嬉しかったし、パパもとても喜んでくれた。
しかし、もし回復魔法を教えてくれる人が見つかれば、私はうちを出て行くんだろう──そうなれば、パパはまた一人で仕込みをして今度は店番も一人でしなければならなくなる。
仕込みを手伝えると聞いたとき、笑顔で嬉しいと答えたが、内心は複雑だった。
ミャクー村は小さな村だ。商人だって同じ人が定期的にくるだけだし、冒険者だってずっと村から出ていない人がほとんどだ。うちのパン屋にくるお客さんだって昔から付き合いのある見知った顔ばかりだ。
訊き始めてから何日かでどこかで分かっていた。同じ人しか来ないのに、新しい情報が得られるわけもないのだ。
冒険者ギルドにも一応クエストとして登録しておいたが、そちらも反応はなかった。
ある日、いつものように店番をしていると、懐かしい顔が扉を開ける。
「久しぶり、だね」
そう言って力無げに笑う青年は、同じ孤児院にいたアルノさん──だったと思う。私が物心ついたときには、すでに冒険者として活動していたからあまり接点はなかったけど、たしかコルネと仲が良かったはずだ。
コルネは剣を教えてもらっているとよく話していたから、おそらく「
「お久しぶりです」
アルノさんの入っているBランクパーティ「
そのため忙しく、村に帰ってくるのは年に一回で、帰ってきたという話は毎年聞いていた気がするが、会うのは何年かぶりになる。
しばらく会っていないせいか以前と雰囲気が少し違う気がする。最後に会ったのがいつかも覚えていないほどだから、単なる思い過ごしかもしれないけど。
今年も村に帰ってきて、うちのパン屋に寄ったといったところだろうか。
パンを渡してお金を受け取るときに、回復魔法のことを訊いてみる──この人なら何か知っているんじゃないかと期待をこめて。
「回復魔法を教えてもらえそうな人ってご存知ないですか? それかパーティメンバーの方に教えていただくことはできませんか?」
「ツテがあると言えばあるかな──今度、手紙を送ってみるよ」
「ありがとうございます!」
ツテがあるという言葉を聞いたとき、私は心の中で「しゃあああああ!」という雄叫びを上げた。
「あの、もし回復魔法を教えてもらえるようになって、そのときにまだアルノさんのパーティがこの村を出発してなかったら、途中まで一緒に行ってもいいですか。出来たらでいいんですけど──」
「ごめん、もう『
パーティが解散……? そして「俺がこの村を出ることもない」というのはどういうことだろう。
加えて、以前と変わった雰囲気──何かあったことはほぼ確実だろう。私は何か訊いてはいけないことを訊いてしまった気がする。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます