第86話 アクスウィル魔法学校 其の十三

 あれよあれよという間に魔法学校に滞在する最終日が来てしまった。元々十数日と、滞在する期間は決まっていたのだが、帰りたくないという思いが沸き上がってくる。


 いろんなクラスに混ざって授業を受けて、放課後は訓練場で模擬戦をして──毎日くたびれて宿屋に戻っていたが、充実した日々だった。


 ここに通っている人はとてもいい人たちで、俺をすんなりと受け入れてくれた。ローランとの模擬戦の後から模擬戦に誘ってくれたり、廊下で話しかけてくれたりする生徒もいて、今ではローランに感謝している。


 食堂で一緒にご飯を食べたり、途中まで一緒に帰ったり……もし俺がこの学校の生徒だったらこんな生活もあり得たのかな、なんて思うこともあった。


 その度に、俺は師匠の弟子だから特別に許可されているわけで、入学しようと思っても実力不足で入学できないという現実に呼び戻された。そう考えると寂しかったが、同時にこの時間を大切にしようと思った。




 最終日だからといって、特別なことがあるわけでもなく、一日が終わる。でもこれもまた日常って感じがしていいや。アドレアやローランと陽が傾くまで模擬戦をやって、くたくたのまま帰路に就く。


 どうでもいいようなことを駄弁りながら、狭い歩幅で歩くのはいつも通りの光景だ。


 他の生徒たちといつも別れる分かれ道で、一度立ち止まる。


「じゃあな、また」

「またね、メリーやエミルに会ったらよろしく」

「また会おうね」


 ローランの後に皆が口々に言いだす。みんな笑顔で送り出してくれている。俺が帰ってからラムハでの生活があるように、俺がいなくてもみんなの生活もまた続いていくのだ。だから笑って別れたい。俺もうまく笑顔が作れているだろうか。


「じゃあね、また」


 寂しさを胸に抱えながら、俺は手を振っていつもの道を歩き出す。今、足を進めないと、永遠にここから動けなくなりそうで。


 ほとんどの人が戦闘職志望だったから、また会えるかは分からないが、会えると俺は信じたい。


 しばらく歩いて後ろを振り返ると、当然だが誰ももうそこにはおらず、赤い太陽があるだけだった。


「帰りたくないな」


 ふと気持ちが口から零れた。

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