第59話 帰宅

 国王がその場を去ってから、残された者たちは途端に騒がしくなる。


「精霊って本当にいるのか?」

「軍事利用されれば国一つ滅ぶのではないですか」

「でも今までそんなことがあったとは聞いたことがない。ということは、きっと何かしらの契約が結ばれていて──」


 精霊が実在する可能性について皆話しているようだ。驚くのも当然だ。俺だって、出会うまではおとぎ話の中だけに存在するものだと思っていた。


 師匠の話を信じているのかは分からないが、方々から聞こえてくる話からは精霊の存在を信じかけている人が多いように感じる。


 巨大なモンスターを空から降らせるなど人間の範疇を超えている、といった意見が多いようだ。


 師匠はというと、お咎めがなかったことに安心したのか萎れた植物のようだった。あの状況でふざけているような話をさせられたらこうもなるだろう。後で労わらなくては。




 王宮で報酬を受け取ってから、少し王都を観光して帰路に就く。


 王都には見たことのないものだらけだった。貴族のお屋敷は本当に家なのか疑いたくなるほど大きかったし、ラムハよりも露店は少なかったが、至るところにあるお店にはラムハでは見ないものも多くあった。


 そして夕食に師匠と入ったレストランでは食べたことがないものがたくさん出てきた。見た目はいつも食べているお肉や野菜だったが、同じものとは思えないほど美味しかった。


 久しぶりにまともな料理を食べたというのもあるかもしれないが、決してそれだけではないと思う。


 色んなものがあって、美味しい料理が食べられて──王都は最高だと思った。きっと師匠もそう思っているのだろう、終始満足げな表情をしていた。


「ただいま」

「ただいま、ヘルガさん」

「おかえりなさいませ」


 少し懐かしく感じるドアを開けてくれたヘルガさんは、いつも通りの無表情だったが、少し──ほんの少し口角が上がっていた気がした。


 王都もいいけどやはり道場は安心する。まだ半年経つか経たないかくらいだが、もう昔から住んでいる家のようだ。


 振り返れば、今回の旅は長いようであっという間だったな。出発してから今日で七日目か……宿屋で殺されそうになって、ケルベロスを師匠が倒して、王宮に連れていかれて──色んなことがあった。


 今冷静になって考えると、宿屋で殺されそうになったのはかなり危なかったな。俺一人で行っていたら、今頃どこかの土の下に埋まっていたのだろうか。


 王都はすごかったな……もし俺に王都に住めるだけのお金があれば住みたいくらいだ。きっと師匠だって──いや、師匠は住みたいと思っても住めないだろう。

 

 Sランク冒険者の三人はどこで非常事態が起こっても駆けつけられるように、住む場所を決められているからだ。Sランク冒険者が増えでもしない限り場所の変更はないだろう。


 そうだ、俺はあの森で誓ったんだった。俺はもっと強くならないと──師匠が自由に暮らせるように、師匠のしたいことが少しでも出来るように。

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