第58話 ケルベロス討伐を終えて 其の三

 それから俺たちは、レンド王国側から出るためにまたひたすら森を歩いた。キュービにつままれたような状態で、ドライアドが本当にケルベロスの死骸を飛ばしたのかということを何度も何度も話していた。


 堂々巡りのような会話をしながら、ようやく森を抜けると騎士団が陣取っていた。こちらを確認すると、ところどころで行われていた談笑がぴたりと止まる。


 おそらく王国騎士団だと思うのだが、何やら物々しい雰囲気だ。どうやらモンスターとの連戦で苛立っているだけではなさそうだ。人の群れの中から団長と思しき人物が進み出てきて、淡々と告げる。


「お二人にトレトの街を破壊しようとした疑いがかかっています。王宮までご一緒していただけますね」




 騎士団のものと思われる馬車に乗せられ、王宮まで揺られること半日。手枷などは付けられなかったが、馬車の中で常に団員が監視していた。


 普通ならもっと酷い扱いを受けていただろうが、Sランク冒険者を無碍には出来ないのだろう。


 この国の国防やその他の問題に対して、国はSランク冒険者を前提とした対策を取っている。一個人に頼るなんて危なっかしい戦略だと思うかもしれないが、現行の騎士団と魔法師団だけでは対応しきれない事態が起こるのが現実なので、仕方がない。


 Sランク冒険者は特に国と契約をしているわけではないため、彼らを繋ぎとめておくために国からの待遇は非常に良い。


 だからこうして街一つ滅ぼそうとしたのにも関わらず、拘束はないのだ。単純に拘束しても自力で破れると思われている可能性もあるかもしれないが。


 王宮に着くと玉座の間に通される。大きな扉がゆっくりと開く様は壮観だったが、それどころではない。ここまで来たということは王様に謁見することだ──もし何か粗相をすれば首が飛ぶ。嫌な汗が止まらないまま、俺は隣の師匠をちらちら見ながら真似をしていた。


「おもてを上げよ」


 威厳のある声に横目で師匠を確認した後におそるおそる頭を起こす。


 離れた玉座に座っていたのは壮年の男だった。覇気のある顔つきをしていて、実直さを感じる佇まいだ。


「報告にはトレトのダンジョンに突然巨大なケルベロスのようなものの死骸が降ってきた、とあるが」

「その通りでございます」


 俺たちの横に立っている団長が肯定する。今頃になってドライアドの言っていたことは本当だったんだなぁと思う。


「そしてその死骸に『ロンド』と刻まれていたと聞いているが、真か」

「真にございます」


名前を刻んだのが裏目に出てしまったか。師匠の方を目だけ動かして確認すると、顔色が半分土のようになっている。


 小さくため息をつき、王様が告げる。


「ロンド、経緯を説明せよ」




 説明を終える頃には師匠の顔は真っ青になっていた。ドライアドがやったなどと話しても、正直頭がおかしくなったのではないかと思われるだけだろう。


 ドライアドなどの精霊は物語に出てくるだけで、実際はいないと思われているからだ。


 実際、周りの人たちの目はそのようなものだ。王様の御前だから口には出していないが、皆憐憫の眼差しや見下すような目を師匠に向けている。


 それに対して、王様はずっと考え込んでいたが、考えがまとまったのか口を開く。


「余は……余はロンドの話を信じようと思う。この話は口外することを禁ずるが──ドライアドに関しては以前似たような話を聞いたことがある。それにロンドの話の通りならば、被害を出すつもりはなかったのだろうし、実際に被害は出ていない。よって、ロンドには調査の報酬を十分に与えて帰す。咎めはなしだ」

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