第33話 ダンジョン探索を終えて
ジュージューという音が少しずつ弱まっていき、カチャカチャとお皿が音を立てる。どうやら料理が出来たようだ。
「何か手伝うことはありますか」
「ではロンド様を起こしてきてください」
「えーと……フライパンを持っていった方がいいですか?」
「あれはコルネくんにしか使っていません」
そんな気は薄々していたけど俺だけだったのか。別に構わないけども。
「ロンド様は早起きなのでいつもならもう起きているはずです。大方、部屋で昨日の魔力結晶でも数えているのでしょう」
「三十七、三十八……」
師匠の部屋の前まで来ると中から声がした。ヘルガさんの言う通り、師匠は早起きのようだ。思い出してみればいつも俺より先に食堂にいた気がする。
朝起きる時間もそうだが、俺は師匠のことをあまり知らないのかもしれない。俺はパーティ時代のことや誰に剣を教えてもらったかなど少しは過去のことを話したことがあるが、師匠の話は聞いたことがない。俺は師匠やヘルガさんの出身すら知らない。
必要かと問われればそうではないが、俺は数か月の間ひとつ屋根の下で暮らしている相手のことを少しは知ってもいいのではないか。
どこかのタイミングで訊いてみるか。
「師匠、ご飯ですよ」
「……ああ、今行くよ」
「コルネくんはさ、結晶の使い道については考えてるの?」
お肉を美味しそうに食べながら、食事の席で師匠が切り出す。
「ダンジョンに行くって決まったのが数日前ですし、特に考えてないですね」
「じゃあ、僕がお世話になっている鍛冶屋に一緒に行って武器を作らないかい?」
武器……か。今持っている剣は村に一つしかない武器屋で買ったものだ。冒険者になってある程度お金が貯まってから最初に買ったものだが、そこから一年くらいは全く使わなかった。
そろそろ新調したいという気持ちはある──というかこの剣はただの剣なのでおそらく魔法剣には適してない。魔法剣を本格的に使い始めて買い換えたいという気持ちはずっとあった。
ならばこのチャンスは乗るしかない。師匠が贔屓にしている鍛冶屋なら間違いない。ただ不安なのはSランク冒険者御用達のお店は当然値も張るということだ。魔力結晶がたくさんあるとはいえ、相場が分からない以上安心はできない。
「……俺の手持ちで足りるでしょうか」
「見積もりがまだだからなんともだけど、たぶん武器に使わなかった結晶売れば足りるよ」
そうだった。俺には二日かけて採ってきた魔力結晶があるんだった。それなら行かない理由はない。
「是非行きたいです」
「分かった、明日行くから準備しておいてね」
ダンジョンのときも、せめて前日の朝に言ってくれれば心の準備も出来たのになあ。
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