閑話 道場での生活
コルネの一日はフライパンを叩く音から始まる。
「朝です、起きてください」
ヘルガが寝室まで来てフライパンを鳴らしながらコルネに言う。フライパンの音が大きすぎて声はコルネに届いていないのだが、そこは気にしない。
なぜこんな起こし方をするのかと以前訊いたところ、この起こし方をするのが夢だったと返答がきた。いつも無表情なヘルガさんにもおちゃめな一面があるんだなとコルネは思った。
顔を洗って服を着替えて、と支度を終えて食堂に向かう。
「おはようございます」
「おはよう、コルネくん」
食堂には既にロンドが座っていて、ヘルガが料理を運んでいる最中だ。食前に運動したのか額には汗が浮いている。
今日のメニューはパンにオムレツ、サラダだ。材料は郊外の農家さんから買うことが多いらしい。
「召し上がれ」
ヘルガがそう言うとロンドはオムレツを頬張った。完全に火を通しながら、焦げついていない絶妙なオムレツはロンドとコルネの好物だ。
コルネは神様に祈りを捧げてから食事に手をつける。食前に祈るのは教会にいた頃からの習慣だ。
朝食を食べ終えるとロンドとコルネの二人は裏庭の稽古場へと向かう。いつも通りのメニューをこなすのだ。
いつも魔法の発動練習が終わるか終わらないかという頃に、ヘルガさんが昼食を持ってくる。
食堂まで行くのが面倒なので、昼食はサンドイッチのことが多い。裏庭から道場に上がりすぐのところにある洗面台で手を洗ってから、具材のたくさん入ったサンドイッチに二人でかぶりつく。
ヘルガは一緒にジュースを持ってきてくれることが多く、少し疲れた体に染み渡るようだとコルネは常々ありがたく思っている。
午後になると日差しが強くなるので、日によっては日陰で稽古をする。ときどき休憩を挟みながら今日の分を終わらせると、すぐに夕食を摂る。
実は何日かに一回、魔法の発動や型稽古の回数が増えていることにコルネは気が付いているのだが、ロンドが笑顔のまましれっと増やしてくるので指摘できずにいる。
夕食の後は水浴びをして、最近市場で買ったボードゲームを三人でする。駒を動かして相手の駒を取り尽くせば勝ち、というものだ。
三人でやると戦略も複雑になり、考えることが格段に多くなる。しばらく飽きることはなさそうだ。
何回かゲームをした後、各々の部屋に戻って眠りにつく。
こうしてコルネの一日は終わっていくのだ。
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