厄災の子

銀髪ウルフ  

   プロローグ 

真っ暗な夜。

本来なら、闇夜を照らすはずの月の光は空にかかる分厚い雨雲に隠れて今は見えない。

月の光がない分、今夜の闇はいつもよりも深く感じる。

魔王の心に影を落とすほどに。


遠くで雷鳴が聞こえた。

微かだが雨の匂いもする。

おそらく山の向こうではすでに雨が降っているのだろう。

次第にここも雨が降り出すはずだ。


雨が降る。

それは春の終わりを告げ、梅雨が来たという合図でもある。

梅雨が来る。

約束の時が来た。

来てしまった。


城の最上階、その部屋にある窓から外を眺めていた女性はため息をつき、部屋の中央に置かれている天蓋つきのベッドに戻る。

そしてそのベッドの枕元に座り、そこに眠る愛おしい息子の寝顔を眺める。

夢でも見ているのだろうか、幸せそうな寝顔だ。

だがそんな寝顔ももう見納めだ。


「アス。あなたはちゃんと愛されている。あなたが生まれたのは呪いなんかじゃない、神々の祝福なの。アスは愛されて生まれてきたの。仮にみんながあなたを愛さなくても私はあなたを愛している。」


女性の息子、アスワイル・ボワは眠りの中でそんな母の言葉を聞いた気がした。


“あなたを愛している。”


それは夢の中で聞いた声だったかもしれない。

だがたとえ夢の中だったとしてもそれが母の声を聴いた最後だった。















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