オーリィと黄金の林檎

おどぅ~ん

0 ~解説・最果ての村とその住人達~

※本稿はシリーズの「解説」であり多数の「ネタバレ」を含んでいます。

 ご覧になりたくない方は申し訳ありませんがブラウザバックをお願いいたします。


 *************************************


 この物語「オーリィと黄金の林檎」は、拙作「麗しき蛙売り」の外伝的作品です。

 すなわち舞台背景を前作と同じくし、登場人物も大半が重複しています。

 そして、本作の中では事物や人物の紹介にあまり筆を割いていません。前作をお読みいただいたことを前提として書かれています。

 ただ、それでは初めてこの物語に触れてみようと思っていただいた方に不親切ではないかと考え、このような解説を用意させていただきました。

 なるべく世界観・事物や人物の紹介に留め、ストーリーの内容には触れないようにしましたが、完全ではありません。あらかじめご了承下さい。


1:最果ての「村」

 無限に存在する並行世界、その「村」は、とある世界にポツリと存在している。

「村」に名前は無い。ただ村とだけ呼ばれている。何故ならば。

 村の周囲は広大な、そして草一本生えない荒野に取り囲まれており、完全な陸の孤島なのだ。そしてこの村の外に、他に人間の住む土地があるのか?村人には知る術がない。飛行場も道路も、航空機や鉄道や自動車、馬すらこの村には存在せず、通信網なども一切存在しない。

 村人の知りえる限り、この世界には【人の住める場所はこの村しかない】のだ。

 ゆえに。村に名前は存在しない。


2:「来訪者」と「先住者」

 この村に住む住人達は、すべて他の並行世界から呼び寄せられた者達。この村で最初から生を受けた人間は一人もいない。全員が、以前暮らしていた世界から、死をきっかけとしてこの村に【閉じ込められた】転生者なのだ。

 ゆえに、彼らは彼ら自身を「来訪者」と呼ぶこともある……

 誰と区別して?彼らをこの世界に【招き寄せた】者、「先住者」と。

 だが先住者は、村には現在一人も見当たらない。推測上の、幻の存在なのだ。

 彼らはどこに消えてしまったのか?それは誰にもわからない。

 過去、特に「先住者」たちについての記録や伝承などは一切残っていない。 


3:「山」の「遺構」

 村人、すなわち来訪者達は、村の中心にそびえる「山」の頂上で復活・出現する。

 山は実は巨大な人口の建造物であり、地下に正体不明の文明の「遺構」が残されている。そしてその遺構は、自動的に活動しているのだ。

 荒野のただ中にある山は、その周囲にだけ生物の生存を許す環境を作り出す。そして一方、他の並行世界から死者を呼び寄せ再生し村に住まわせる。

 そう。この【システム】の構築者が「先住者」。このような文明の遺産がある限り、誰かが何かの目的で作ったに違いない、いたはずなのだ……

 村人たち、「来訪者」たちには、ただそう推測するしか無いのだが。


4:村の文化・文明・生活環境

 村での生活は極めて簡素であり、素朴であり、端的に言えば原始的。

 高度な機械文明は一切存在せず、単純な狩猟と農耕、ごく小規模の市場での物資の交換で、人が生きる最低限に近い生活が営まれている。

 農作物や動物は、この世界の土着のもの。それぞれ「蛙」「兎」「麦」「りんご」などと呼ばれているが、どれもあくまで村人たちが以前住んでいた世界の動植物と姿が似ているから便宜上そう呼んでいるだけであり、例えば前作本作で言う「蛙」とは「この村に住む蛙のような生き物」の意である。


5:村人達、その精神生活

 村人たちの以前存在した世界は、一人一人全く異なる。無限に存在する並行世界の同じ世界から二人以上の人間が村に来訪すること、それは可能性は無ではないが蓋然性も無いに等しいようだ。

 ただし村人たちは全員、どうやら時間軸だけは共有している。彼らはいわゆる「現代人」。元居た世界でそれぞれ同じようなレベルの文明の恩恵を受けて生きていた。したがってギャップなく容易にコミュニケーションはとれる。

 ……何故同じ言語を使用できるのか、それは明らかではないが。


6:村人達、その肉体的特徴

 この村に生まれ変わった村人達は全員、いわば「怪物」である。

 復活に際して、山は村人の体を改造する。種々異なった生物の特徴と能力を、人間の肉体に埋め込んでキメラ化させるのだ。村人たちは以前の世界で人間として死に、この村で怪物としてよみがえる。

 姿だけではない。その埋め込まれた生物に見合った「獣の力」を与えられて。

 そして村人たちはそれを日々の生活で当たり前に利用する。

 厳しく貧しい環境を生き抜くために。


7:登場人物


・「蛇と虫の眼の」オーリィ

 本シリーズのメインヒロイン。

 大富豪の令嬢に生まれながら、自ら進んで娼婦に堕ちたという過去を持ち、その破滅的な生活が、元の世界で彼女を一度死に追いやったのである。

 おとなしやかでおっとりした普段の言動の裏に、暗い激情を秘めた二面性のある性格で、何かのきっかけでそれを爆発させては悔やむのが常。よき村人でありたいと願いながら、自分の業に、サガに逆らえないことに悩んでいる。

 長身で容姿端麗、美しい紫の長髪が目を引く。「村一番の美女」と称される所以。

 だが彼女はその名の通り、右半身に蛇、左半身に虫(タガメ)の力を宿している。

 邪眼と複眼の異形のオッドアイ、右半身は首から下が全て蛇の鱗におおわれたハーフサイダーなのだ。

 村では「りんご」を栽培する農婦として生活する一方、池で蛙を捕まえて市場で売る「蛙売り」である。


・「穴掘り鬼の」テツ(テツジ)

 前作「麗しき蛙売り」の主人公。彼が村に蘇り、オーリィの世話で新たな人生を始めるところから、前作の物語は始まる。すなわち前作は二人の出会いの物語。

 元軍人。高級将校であったが、隣国との戦争中に、とある出来事で祖国に捨てられる。人の世の「正義」にまつわる欺瞞に絶望して荒み、怨念と猜疑心の塊となった彼は、しかし、オーリィに生まれ変わった命を救われ改心を果たす。

 オーリィは彼の恩人であり、そして……。

 村では荒れ地の開拓要員として活躍。その優れた働きぶりから村の重鎮達に将来を嘱望されている。今は少々度が過ぎるぐらいの真面目な堅物。

 この村に蘇った彼は、岩石のような皮膚におおわれた巨人。その肉体は極めて強靭で、怪力の持ち主。鉱物(石)を食するという、村でも全く他に例のない、そして生物の常識を外れた体質を持っており、肉体に埋め込まれた獣も正体不明。


・「百舌女の」ケイミー

 オーリィの親友。実はオーリィもまた、この村で彼女に命を救われた。その心のつながりは極めて強く、ついにオーリィはケイミーを「母」と、ケイミーはオーリィを「娘」と呼び慕いあう関係になっている。実はケイミーの方が年下なのだが。

 元教師。教え子とのとある深刻なトラブルが原因で、自ら列車に飛び込んで命を散らし、この村に生まれ変わった。

 やや小柄ながら俊敏でスポーティ。性格ははつらつとして気さく。

 畑を荒らす兎を狩って暮らす、害獣駆除要員・兼・兎猟師である。

 二つ名は百舌だが、彼女が体に宿す獣はワシ・タカのような猛禽。短髪の中から飛び出した冠羽と超人的な視力を持った大きな目、鋭い爪を備えた猛禽の足が特徴。


・「こどもドラゴンの」コナマ

 オーリィ、ケイミー共通の恩人。二人から篤く慕われている。

 この村では極めて例外的な肉体を持つ人物。村で唯一、子供の体なのだ。外見では11~12歳程度にしか見えない。だが実は、以前の世界で命を落とした時が68歳。生まれ変わった時点で肉体が著しく若返り、なおかつ、その後20数年をこの村で過ごしているのにも関わらず、その体は全く成長していないのである。

 すなわち、いつ果てるとも知れぬ寿命の持ち主。

 かつての世界では先天的な心臓病に苦しみ、人生のほとんどを病院で暮らしていた彼女は、生まれ変わった健康な子供の体で今、失った少女生活を謳歌している。

 普段はヤンチャで気ままなイタズラ娘を演じて暮らす一方、村民生活では経験豊富な古参であり、海千山千の行動力をもつ村きっての実力者として一目置かれる存在。

 長老モレノ(後述)の盟友で頼もしい相談相手、かつ、抜け目ないエージェント。

 職業はケイミーと同じく畑の害獣駆除。主に大鼠を狩っている。

「ドラゴン」はコモドオオトカゲの意。下半身がすっかり鱗に覆われ、大きな尻尾を持つ。そして超人的な臭覚を持っている。


・「ダチョウ男の」モレノ

 村のリーダーであり、「長老」という敬称を持つ。

 以前の世界では、「新進気鋭」と称された電子工学の研究者だった。機械文明の全く存在しないこの世界で、生涯を懸けていた学問を失った彼は、自分をその運命に落とした「山」、即ち先住者の遺構を憎み、挑み続けている。愛すべき、そして長老として自分が守るべき村人達の生存に、それがなくてはならないことを知りながら。

 極めて明晰かつ合理的な頭脳の持ち主であり、指導力も高い。長老就任以降、それまでの村の様々な時代遅れな慣習や制度を変えていった実績があり、村人たちに慕われ尊敬されている。

 にも関わらず、普段の彼はひょうきんな道化者。甲高い奇声と珍妙な振る舞いで周囲を困惑させたり苦笑いを誘ったり。

「堅苦しいのはごめん」なのだ。村に何か事件が起きなければ……。

 長大な首と脚、その名の通り彼の獣はダチョウ。かくし芸は覗き見と早駆け。


・「恐竜男の」グノー

 長老モレノの補佐役、古参の老人。以前の世界での過去は不明。

 先代の長老に跡継ぎとして目されていたものの、後からこの世界に現れたモレノの人物に惚れ込み、かえってモレノを長老に推して自分は補佐役に回った。

 人情味と思いやりが深く、新しく村に現れた人間をなだめる「声掛け」の名人。

 村での職業は鍛冶の親方。そして村役場では土木建設大臣。

 鋭い牙と鳥類にも似た爬虫類の手足に、頭の鶏冠。恐竜男の所以である。


・「水牛頭の」バルクス

 長老モレノの腹心の部下。グノーと同じく助役として長老を支える。

 以前の世界では酪農家で農園主。その豊富な農業の知識と経験を買われて村の重鎮の一員となったが、この世界に来たのは、役場のメンバーでは比較的最近。

 何事も慎重で落ち着いた、貫禄のある人物。仕事に対しては極めて熱心で精力的、そして人材マニア。申し分なく有能で頼れる男だが、時々信じられないようなうっかりをするのが玉に瑕。

 村の農産を一手に管理指導する、「農場総監督」。皆から略して監督と称される。   

 村人の結婚の仲介が、もう一つのライフワーク。

 水牛を体に宿した剛力の巨漢。


・「ぶきっちょバサミの」メネフ

 長老モレノの下で働く若者。機転とフットワークが売りの役場の小間使い。

 気楽なお調子者に見えるが、時にシニカルな顔をのぞかせる。不良「ぶって」いるらしいのだが……そんな彼の過去は明らかではない。

 とっさの機転と鋭い観察力、カンの良さを持ち合わせており、ピンチをひらめきで回避、解決するのが得意。その性格と、とある技能によって、彼は若年ながら村で、とある重大な使命を担っている。

 人付き合いがうまく、顔が広い村の名物男。職業は仕立て屋。

 ザリガニを体に宿した彼の特徴は、額の長い触角と左腕の大きなハサミ。その手でどうやって服の仕立ての仕事をこなすのか、それは語られていない。が、相当不便なことは間違いないようで、彼が自ら名乗る二つ名の通り。

 もっとも。彼が本当に「ぶきっちょ」なのは、仕立てよりも実は「恋の道」。


・よだか婆ァ

 村の最古老。以前の世界で50年、村に蘇って90年余り。しめて齢約140歳、しかも端数は覚えていないらしい。

 長生きのせいで身長はすっかり小さく縮んだが、その体は今だ精力に満ち溢れ、元気の塊。どんな相手でも大声でガミガミと怒鳴り散らすのが彼女の常。その威厳たるや、長老モレノですら、彼女の前では小僧扱い。だが一方で、純朴で飾らない人柄と、何とも言えない愛嬌を兼ね備えた人物でもある。それゆえ村の誰からも篤く敬われ、特に女達には村のヌシとして絶大な影響力をもっている。

 生まれつきの兎口(口唇裂・口蓋裂)という奇形のゆえに、無学で貧しい生まれ故郷の環境ゆえに、迷信はびこる生まれた時代のゆえに、見世物小屋に売られて化け物として檻の中で生涯を送ったという、悲惨な過去を持つ。そして怪物ばかりのこの村で、彼女は逆に初めて人間扱いされた。その恩に感じた彼女は、自分の身に宿った獣(ヨタカ)をむしろ誇りとして、かつての人間の名を捨てた。村では彼女の人の名前を誰も知らない。

 村のりんご園の「園長」。もっともその肩書きには何やら陰りがあるのだが……。

 コナマと深いかかわりがあり、その縁でケイミーを助け、オーリィを救済するのに大きな役割を担った。


・「白コウモリの」シモーヌ

・「雌豹の」アグネス

・「だんまり羊の」ベン

・「木屑喰いの」ゾルグ

 本作「オーリィと黄金の林檎」においてはじめて登場する、または詳しく説明される人物たち。

 ベンとゾルグは荒地の開拓要員としてテツジと働いたエピソードがある。

「穴掘り鬼」というテツジの二つ名は、ゾルグとベンの思い付きによるもの。


 ********************************


 以上、お伝え出来る前作の予備知識はこれまで。

 お読みいただきありがとうございました。(本編に続く)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る