高校球児の異世界ライフ〜チートをもらって第2の人生を無双する〜

白熊公爵

序章

日照り強い8月24日





この日は甲子園大会の決勝である。




「康介!7回裏だ!このままなら優勝旗持って帰れるぞ!」

監督の声が響く。




「・・・あちー。この4番、さっきからしっかり当ててくるんだよなぁ・・・」


2ストライクと追い込んではいるものの、康介はこの4番を常に警戒していた。


(サインは・・・直球か。2アウトだし4番で終わらせられれば流れはこっちのものだ)


豪快な投球フォームの康介は大きく振りかぶって投げた。



(よし!外角低めのきわどいコース!・・・えっ!?)


打球が目の前にゆっくり飛んでくる。


もちろん康介の目にのみの速度だが。


快音の後にはコーンと鈍く響く音。


「「「康介っ!!!」」」





(あぁ、頭に当たったのか)


ボールは目の前でおちていく。


無意識に康介は一塁へ送球。


・・・するも、体がゆっくり倒れていく。



(あれ・・耳が聞こえない・・・なんでみんなこっちに駆け寄ってくるんだ・・・)


頭に打球が当たっていることもすでに覚えていない康介。



(今度は目が見えなくなってきた。疲れてんのかな、俺)


周りでは康介を心配する声。


スタンドでも顔を見合わせている観客。



(あぁ、眠い・・・ちょっと寝たい・・・あれっ決勝って・・・)

そう思いながらも康介はゆっくり目を閉じていく。





《この子、いい感じかもぉ》

突如、明瞭な声が頭に響く。



(誰・・・何・・・?)

何も考えられず体は徐々に重くなり意識がゆっくりと途切れていく。





《あれぇぇ、反応するんだぁぁ。でも大丈夫だよぉぉ。すぐ会えるからぁぁ》



(うるさっ・・・この声うるさっ・・・・・・・

 ちょっと静かにしてくれよ・・・眠いんだから・・・)


頭の中に聞こえるこの声に不思議な感覚を覚えつつも、眠気とあわせて文句が漏れる。





《ちょっとぉひどくなぁい?君にちょっとしたサービスしてあげようとしてるのにぃ。

 んんんっと。こうしてぇ・・・こうかなぁ・・・?・・・・こうかぁ・・!》



(なにこの不安にさせる言葉・・・・)


そう思っていると、ぼやけてきた視界が渦巻き始める。


《これからぁ転生の儀式するからぁまってるねぇ》



(なに・・・?もぅ・・・考え・・られ・・な・・・い・・・・)



ゆっくり・・・・・・



ゆっくりと・・・・・・・・・・・・・・・





康介の意識が途切れる。





甲子園決勝。


高校3年最後の夏。



蝉の声鳴り響く。




康介は最後の夏とともに人生を終えた。

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