第2話会った
未練は来た道を引き返し、大学に向かっていた。
ついさっき通ったはずの道だが更に景色は変化していた。
主に建物の色、店舗事業所名、たまに建物の形まで。
街並み自体は何もおかしい所はないが、明らかに今までと違う風景。
――恐ろしい!!
カレー屋が一瞬で消えたのを確認した未練は自宅アパート前でしばらくうろうろした後、携帯で電話を掛けてみた。
友人親恋人教授親戚片っ端から。
知らない人が電話に出て慌てて切る事数回。
番号自体使われていない事も数回。
「お客様がお掛けになった電話番号は現在使われておりません」
事務的で無慈悲な言葉に悲しくなり、
なんでですか!!と一喝。
怒鳴りつけてやったぜ、これを機に反省し、真心ある対応をしてもらいたいものだ。
思わずクレーマーになってしまったが、未練の気が晴れる事はなく不安は増すばかり。
そんな事をしているうちに電波状況が徐々に悪くなり、ついには完全に繋がらなくなってしまった。
そして未練は大学に向かうのだ。知ってる人に出会う為に!!
変わってしまった景色に迷いつつ、行ったり戻ったりを繰り返しながら、僅かな街の面影を頼りに未練は走った。
大通りに出ると大学は……見えた。
このまま通りに沿って進めば正門がある。
息が上がっていたが、ラストスパート一気に向かう。
未練の通う
もう一度確かめてみる。
力馬女子体育大学
確かにそう表示されている。
岡本未練は男子大学生である。
智馬大学経済学部経済学科の二年生。
目の先にあるあの建物に通っていたはずである。
――恐ろしい!! どうすればいいのか分からない!! ……怖い!!
敷地内に入ってみるか……とも考えた。
もしかしたら知ってる人に出会えるかも知れない。だが、
関係者以外立ち入り禁止
とある。
未練は果たして関係者と言えるのか?
ついさっきまでは自信満々胸を張り威風堂々泰然自若の態度で、関係者ですけど!!と言えたはずである。だが今は……
関係者以外立ち入り禁止
注意書が未練を阻む。
ましてや女子校、女の園である。おいそれとは立ち入れない。
そもそも守衛がいる。
万策尽きた、仕方あるまい。
今の自分に出来る事は何だ?
未練は正門の前でモジモジする事にした。
モジモジしながら考えた。状況を整理する必要がある。
――なにがなんだか分からない!! 怖い!!
まず未練自身がおかしくなってしまった可能性。これはあり得る。
目の前の光景はリアルでとても幻覚とは思えないが、幻覚とはそういうものと聞いた事がある。
もしそうなら病院に行けばいい。話は早い。そうであってほしい。
だがこれが現実なら難しい。
これだけの事が起こったのに街が混乱している様子がない。何故だ?
何処かでニュースを確認したい。
誰かに話も聞きたいが、誰に聞けば……
守衛と目が合った。
実際には未練が来た時から見られていた。
ダッシュで女子大の正門前に現れ汗ダラダラで校内をチラチラ、路上をうろうろ、モジモジする息の荒い男。
守衛に話を聞いてみるべきか未練は迷った。
守衛は未練を睨んでいる。
話しかけてくれればいいのに、と未練は思った。
こっちがこんなにモジモジしてるのに、と。
守衛は今にも警察でも呼びそうな様子だ。
いや、警察に話を聞けばいいのか!?
「もしかして、迷子?」
女の声だった。ハキハキしているが優しい声。
「やっぱり迷子でしょ?」
顔を向けるとジャージ姿の若い女。
ここの学生の様だ。ランニング中だったのか日焼けした顔が汗ばんでいる。
少しだけ息も荒い。
「ちょっと待っててね」
女は携帯を取り出すと何処かへ電話を掛けだした。
女学生のポニーテールの揺れを眺めながら、自分は果たして迷子なのか、と未練は考えた。
若干不本意ではあるが迷子と言えなくもない。
只、何の非もない自分がそう呼ばれるのは納得しかねる。
寧ろこの街の方が迷子といえるのではないか。
「もう大丈夫。迷子センターの人がすぐ来てくれるからね」
いつの間にか電話は終わり、女学生が笑顔を向けてくる。
「立ちっぱなしじゃ疲れちゃうよ。あっちで座ろ」
女学生が指差す先には校内のベンチ。
彼女に招かれ未練は、立ち入り禁止をいとも容易く突破した。
ベンチに並んで座る。
彼女は未練を見つめてくるが未練は只、前を見て座っていた。
シトラス系の整汗スプレーの香り、ドキドキしていた……というのも少しあるが、それ以上に不安であった。
彼女に気を配る余裕はこの時の未練にはなかった。
何が起こっているのか?
迷子センターの人とは一体なんなのか?
これから何をされるのか?
自分はどうなるのか?
――恐ろしい!! 分からない!! 怖い!!
ヌッと目の前に顔。心配そうな顔だ。
女学生が未練の表情を覗き込んできていた。
「大丈夫?」
目が合うと彼女は未練の為に大袈裟に笑顔を作る。
「もう怖くないよ。何にも心配いらない。大丈夫大丈夫」
彼女は未練の手を握った。温かい。
未練はこの時初めて、自分の手が冷えきっている事に気付いた。
徐々に彼女の手の温度が未練に伝わる。
徐々に不安も薄らいでいった。
未練は自分の身の上に起きた事を整理出来ていないながらも話した。
彼女は頷きながら聞いてくれる。
この場所がさっきまで智馬大学であった事も彼女は知っている様子だ。
何故?どういう事なのか?彼女は何者?
未練は女学生の目を見据え考えた。
――かわいい!!
「大分、元気になったね! 良かった」
彼女は微笑んでくれる。
――かわいい!!
「すみません、お待たせいたしました。お電話頂いた熱原さんですか?」
――かわいい!!
男の声だ。丁寧で明るい高く作った声。
はいそうです、と女学生。
「迷子センターの人来てくれたよ。これで安心だからね」
男は声の印象とは裏腹に、鋭い眼光。
頬は痩けてるが体は肥え、肩幅広く、身長は百八十以上ある大男。
作り笑顔を未練に向けた。
「異世界迷子センターの
――怖い!!
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