〈10〉
左手にマヨネーズの坊ちゃん、右手に落ちていたシャワーヘッドを持って、
僕を真ん中にして一列になって歩く。向かう先は以前ひろし君を罵倒した公園だ。
もう二度と行けやしない場所の一つであったが、このシャワーヘッドを埋められそうな場所が他に思いつかない。
時刻は18時過ぎ。さすがに公園には誰もいなかった。
花壇の土をシャワーヘッドをスコップのようにして掘る。申し訳ないとは思ったが、土を素手で触りたくなかった。
もしこれが彼女であっても、僕は同じことをしていただろうか……。
考えてしまう時点で終わっている。即答できないほどの薄い感情を「愛」などと思い込んでいただなんて痛々しい。
手ごろな深さまで掘って、シャワーヘッドを穴に置いた。土を被せるときは極力土を触らないようにしてかける。小指の側面が犠牲になったが仕方がない。
彼女にしてやれなかった土葬を、皮肉なことに別のシャワーヘッドをもって成し遂げた。彼女をぞんざいにしてしまったことが消えるわけではないのに、どこか晴れ晴れとしていて、自分の薄情さが浮き彫りになる。
「行こうか坊ちゃん」
「……」
マヨネーズの坊ちゃんは喋らない。彼女と同じだと思った。
ただひとつ違うのは、坊ちゃんも、じゃがいもも腐るということだ。
責任感が足りない僕にとって、それぐらいがちょうどいい。期限があるほうが嫌でも傷み具合を気にすることができる。
そういえば、潰したじゃがいもにラップをするのを忘れていた。
別にそんな理由で走る必要もないのだが、僕は走って帰ることにした。
いつまでもここにいたら、また自己否定の日々に戻りそうだ。
ようやく本当の意味で彼女と別れることができた気がした。不思議とこれまでの陰鬱な気持ちは消え失せていた。
さようなら。
どうもありがとう。
こんなことを言うのは烏滸がましいけど、
大好きだった。
独りよがりの気持ち悪い空気とともに、月が光っている。今日は三日月だ。
満月ではなく、欠けているところが何処か自分と重なって虚しくなったが、それでも心はすっきりとしていた。
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