〈7〉

僕は今右手でマヨネーズを持っている。

バーコードのところにスーパーのテープが貼られた、さっき買ったばかりのものだ。


ポテトサラダを作ろうとしたらマヨネーズが無かった。

僕からすればただそれだけのこと。それなのにレジのカウンターにマヨネーズを置くやいなや、店員が「こいつはマヨラー」と言わんばかりに、ニヤニヤと気色悪い笑みで僕を見てきた。

極めつけに「すぐに召し上がりますよね!」と、さも当然のように口にする。まず袋の有無を聞け有無を。


どうやらこのスーパーにはまともな店員はいないらしい。変な奴ばかりだ。

マヨネーズのみ購入=マヨラー。恐らくAIでもそんな発想は導き出さないだろう。面倒なのでそのままやり過ごしたが、若干嫌な気分になったので店を出て即効テープを剥がすことにする。


でも、テープの端がちょっと折ってあってすぐ剥がせるようにしてあったからやっぱりやめた。そのさりげない気づかいがどこか嬉しかった。


マヨネーズの袋の端を持って、グルグルと振り回しながら歩いた。遠心力すげーわ。



「回転トルネーードッ!!」



誰もいないことを確かめて、わりと大きめの声でそう言ってみる。それからマヨネーズを掴んでいるほうの腕を勢い良く回した。ここで悪の組織とか出てこないかな、この遠心力で倒してやるのに。


そんなことを本気で考えていると、袋が切れて本体が飛び出した。マヨネーズの容器が道路に叩き付けられ、一回バウンドしたのを目の当たりにし、何をやっているのだと我に返った。


マヨネーズはゴミ捨て場の辺りに転がっていて、なんだか笑える。パッケージされていない中身満タンのマヨネーズが路上にくたばっている光景など、そうそう見られるものじゃない。



「さあ、帰りますよ坊ちゃん」



笑いをこらえながらそう言った。突然マヨネーズのことを「坊ちゃん」と呼び出すなんて、自分でも分かるほどにキチガイだ。


マヨネーズを拾おうとしたら、原色の黄緑をしたステッカーが貼られたゴミ袋が視界に入る。然るべき日に出さなかったゴミによく貼られるものだ。

まったく、ゴミの日を守らない奴の気が知れないな。冷やかしも込みでなんとくそのゴミをまじまじと見てみる…………一瞬呼吸が止まったような気がした。 


それは紛れもなくシャワーヘッドだった。もちろん彼女ではない。

そんなことは分かっている。彼女はもっと金属の部分が細くて、こんなに頭でっかちでなかった。

それに彼女はもう既に焼却され、別の何かになっている頃だろう。だけど僕はこの場から動けなくなってしまった――

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